『I LOVE YOU』には敵わない。
春菊 甘藍
第1話 進まぬ原稿
大学生、
「書けない……」
彼は小説家を夢見ていた。今度、新人賞に出すための作品が書けないで居るのだ。モラトリアムに許された時間を費やして、孤独にひたすら……スマホにメッセージが入る。
『今日
孤独ではなかったけども、書いていた。大学の同級生、
「呑む!!」
酒に酔った翌日に書いた物は見るに
酒を呑むのが好きだから。
「あー……」
書きかけのプロット。
「よし」
ネタ帳を持ち、まるで言い訳をしているような気分で部屋を出る。財布とスマホはいわずもがな持って。
待ち合わせの店へと急ぐ。彼女は喫煙者であるため、決まって店は喫煙可、うるさいのも苦手なため個室席の予約は欠かせない。こうして誘ってくれたということは事前に予約してたのだろう。
「えーっと。あ、いたいた」
目的地、店の看板の辺りに彼女はいた。
ダボついた黒いバンドTシャツにホットパンツ姿というラフな格好。大きめの
こちらに気付き、小さく手を上げる。何だかその控えめな仕草が……
「ィィ……」
「しみじみと言わないでよ」
控えめな声。少し低めの声を彼女自身は気にしているみたいで。
「小声で喋ったのに聞こえてるのか……」
「バンドマンだからね」
「いこ」
綿貫はこちらに振り返り、入店を
何だ、そのなりで恥ずかしいはないだろう。
「あ、二名です」
店員さんに案内され、個室に到着。綿貫が帽子を外す。
「行き詰まってた……でしょ?」
早速、煙草に火を付け、綿貫は言う。
図星。彼女の前で、僕は嘘がつけない。
「そそそ、そんなことねぇし」
「ほんとさ。もうちょっと嘘上手くなった方がいいよ……」
ため息みたいに煙を吐いている。
綿貫は僕が小説を書いていることを知っている。
「最初は何頼む?」
やれやれとばかりに彼女はメニューを見る。僕はビール、彼女は
「乾杯~」
「ん」
乾杯の
「バンドはどう?」
「なに、その父親みたいな質問」
彼女は枝豆を口に運びながら、カクテルを一口。
「この前のライブは上手くいった」
「おう、見てたよ」
彼女が所属するバンドのライブ。ライブハウスは大学の人だけでなく、何名かメンバー以外の人もいた。
「ずっと私ばかり見てたでしょ」
「え~、だって他に知り合い居なかったし~」
思えば、そのライブ中の記憶は彼女ばかり。立体的な音響は、会場の熱気も相まってステージに立つ彼女はやけに
「
「さすがに、ね?」
笑って、
「そっか……」
料理が運ばれてくる。
「ねぇ……」
「何?」
彼女の目が少しトロンとしてきた。いつもジト目の彼女だが、酔うと少しその目は優しげになってくる。僕自身も少し酔いが回ってきたかもしれない。
「……もう、死のうとしないでね」
彼女の頬に涙が伝う。
たった一粒。頭がズキリとする。
痛みと共にフラッシュバックする記憶。
あの時も君は泣いてた。
「しない。大丈夫だから、心配すんなって」
心を落ち着け、彼女の目を見る。
安心させてやれるように。
「これくらいにしておこう。すいません、会計お願いします」
店員を呼ぶ。
彼女はだいぶ酔いが回ってしまってる。
僕自身は、そこまではないが止め時だろう。
会計を済ませ、店を出る。
かなり酔ってる綿貫が心配なので、送っていく。
自販機で彼女の水を買っていると、綿貫が袖を掴んでくる。
「どした?」
綿貫は
「……ごめん。吐きそう」
「ふぁっ?!」
月が綺麗な夜だった。
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