第2話 パンクな君とライター

 暇な時間を見つけ、小説のプロットを書いている。大した物で無く、書きたい言葉、シーンを書き連ねたようなメモに過ぎない。


 大学は夏休み、バイトも今日は無い。窓の外には青空。

 机には自称プロットのメモ用紙が散らばっている。


 コップに付着した水滴は、中に入った麦茶がもうぬるくなってしまった事を教えてくれる。


「ん~」


 今度、小説投稿サイトで行われる新人賞。

 書こうとしているのは恋愛小説……


「う~ん」


 読者を楽しませるような、笑えるような恋物語。

 試しに書いた一文は、


『君が好きだ』


 在り来たり過ぎて。


 『月が綺麗ですね』


 くらい言えないものか。

 インターホンが鳴る。誰が来てるかは予想がつく。


「はーい」


 ドアを開けると、予想的中。

 綿貫紗菜わたぬきさながいた。


「今いい?」

 

 彼女はバンドに使う機材を僕のアパートに置いている。彼女の住んでいる場所は大学から離れているため、僕が提案して今に至る。


「いいよ~。今日は何か使うの?」


 別に綿貫以外で来る人もいないのに彼女は毎回玄関まで来て『入っていいか』と聞いてくる。自室は、紙束で散らかっている。正直、女子を上げて良い部屋じゃ無い。


「いや、特にそういう訳では……」


 あぁ、バイトで疲れたのかな?


「まぁ、いいや。灰皿これ使って」


 僕は煙草は吸わない。時々こうして綿貫が来るので常備してる。


「あ、そうだ」


今度会えた時、と思って渡そうとしてた物。


「え?」


「これ、この前のライブ成功記念ってやつだ」


 綿貫に渡した小さな紙袋の中には、意匠が施された金属製のライター。


「へ~、ありがと」


 描かれているのは花。


「スマホのカバーにその花あったよね。名前なんだっけ?」


 彼女のスマホカバーに描かれた花と同じ花の意匠が施されたものを選んだ。


「アネモネ」


「それや」


 彼女と机に向かい合う。彼女はしばらく手の中でライターを転がし、


「さっそく、いい?」


 ライターを渡してくる。僕が付けるのか。


「おけ」


 煙草を一本取り出し、咥える。彼女の桜色の唇に目が行ってしまい、視線を逸らす。


「んっ」


 顔を彼女が近づけて来る。室内に風なんて吹いていないのに、手を添えてそっと煙草に火を付ける。


「フーッ」


 濃い紫煙が広がる。窓は開けてるが、肺の中に重い物を感じる。


「また寿命が縮んじゃった」


 悪戯っぽく笑う彼女に、感じた温かさ。

 煙草の火のようにほのかで、綺麗で、曖昧あいまいで。


 受動喫煙とあるように。

 その煙が汚すのは君だけじゃ無い。


「そうだな」


 苦笑する。

 君と一緒に汚れるならば、それも悪くない。

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