第4話 飲み過ぎ注意

 酒の飲み過ぎで、頭が痛い。

 幸いにして、今日は予定無し、小説を書き進めねばならないぐらいだ。


「まぁ、自業自得なんだがな……」


 狭い部屋におのれ一人。

 それでもとパソコンに向かう。


 いざ書き始めてしまうと早いもので、言葉はどんどんつむがれてゆく。


 小一時間ほど経った所で、手が止まる。

 キリキリとした痛みが頭に走る。


 こうも痛いと、余計なことを。

 昔の事を思い出してしまう。


 思い出すのは、高校時代。

 綿貫と初めて会った時。


「ねぇ、この本好きなの?」


 初めて話しかけられた時の事。

 今でも鮮明に覚えてる。


「ずっと、そればっかり読んでるからさ」


 今はパンクな綿貫だが、この頃は文学少女と言った様相でこれはこれで良い物だった。


「え?」


 正直、本を読むフリをして時間を潰していただけだったのだ。いきなり話しかけられ、戸惑い。


「う、うん」


 つい、肯定してしまった。


「そうなの?!」


 この時の興奮していた表情は忘れられない。

 この本の良さについて、語る綿貫は本当に楽しそうだった。


「この作者の他の作品知ってる?」


 首を横に振る。これ以上は嘘を付けなかった。


「じゃ、貸すよ。明日持ってくるね」


「あ。あり、がとう」


 落ち着きを取り戻したのか、冷静を保とうとしてるのが丸わかりだった。その後で焦って本を読み、内容を頭に叩き込んだのは秘密だ。


 翌日、本当に彼女は数冊の本を持って来た。

 僕は二、三枚のCDを持ってきた。


 彼女ほどでは無い。

 だが軽い趣味としての対抗意識と、ただ本を貸して貰うのは悪いと考えためだ。


「……予想外」


 驚いた彼女の表情。

 呟いた言葉が忘れられない。


 お互い本、CDのことでいろんな話をした。

 言葉使い、セリフ。歌詞や楽器のことまで。


 思えばこの頃から、本を読み始めた。

 彼女が教えてくれた文字の世界は楽しくて。


 出来る事なら何時までもひたっていたかった。


 その翌日も、また次の日も。

 時間の許す限り本を読み、彼女と話していた。


『宝石みたいに綺麗な言葉を、音楽で更にみがくの』


 綿貫わたぬきの言葉で、一番覚えてる一言。

 彼女はこの頃から、音楽の道に憧れていたのかもしれない。


 何も無かった僕の世界に、君は言葉の灯りをくれた。


 好きな物を追うキラキラした彼女の目と、今まで見えていなかった美しい世界がたまらなく好きで。


 それは君がくれた、の始まりだったんだ。


 







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