第16話「覚醒ー2ー」

…………なんだ…………この光景は?

 

 目の前にはスーツで、手土産を持ち歩く俺がいる。

 

(あいつ…………喜んでくれるかな?)


 ああ。

 そうだ。


 忘れていた、あの日の最後。

 俺はケーキを買って、家に帰っていたんだった。


 これは記憶なのか?

 俺はあの日の自分自身を、後ろから眺めている。



(ただいまー)


(なんでだよ…………誰が…………こんな…………)


 

 思い出した。



 あの日。

 優理が誰かに殺されていた。

 

 血にまみれた彼女を、泣きながら抱きかかえる俺。

 手を震えさせながら抱きしめる自分を、俺は軽蔑した眼差しで見つめていた。


 お前はなんて無力なのだ。

 泣こうが、喚こうが、いくら強く抱きしめようが。

 目の前の愛する者は、もう戻らないと言うのに。


 だと言うのに、目の前の男は絶望に支配され、泣くことしかできないでいる。

 

 それ以外何もできない。

 なんて情けないのだろう。


(この女が悪いんだ。はぁ…………はぁ…………騒がなければ殺さないと言ったのに)


 強盗が優理を殺した。

 何の罪もない彼女を。

 

 俺たちの幸せな未来を、全て奪い去っていった。


 何で?

 どうして俺たちが?


 幸せだった日常は、今目の前でかき消された。


(潔く死ねや)


 最後にみた光景は、血に染まったナイフの先端。

 

 ああ…………そうか。

 

 俺はあの時…………殺された。

 

 死んだのだ。



 そして、この世界に転生していた。


(お前はもう、私達の家族だろ?アレン)


 …………家族。


 そうだ。

 俺はようやく、家族というものができたかもしれなかった。

 

 ハロルドさん。

 エマさん。

 コレット。

 そしてエレナ。


 それ他の人でも、皆んなが俺に優しくしてくれた。

 家族みたいに。

 

 愛してくれた。


 やっとだ。

 やっと俺の居場所を見つけたのかもしれなかった。



 だが…………。

 


 殺された。

 また奪われた。

 理不尽に。

 目の前で。






 殺してやる。




 …………ドクン。




(ーーーーいい憎しみだ)


 俺の中で、鼓動が脈打った後、またあの声がした。

 今度は前よりもはっきり聞こえる。


 ーーーー誰だお前はーーーー


(あいつらが憎いか?)


 ーーーーああ。憎いーーーー

 

 もうなにもかもどうでもいい。

 全てを壊したい気分だ。


(いいぞ…………いいぞいいぞ…………力を貸してやろう)


 ーーーーああ……欲しい。なんだっていい。あいつらを殺せるならーーーー


(何も考えることはない。憎しみのままに殺すがいい)


 ーー殺す……殺す……殺す……殺すーー


(そうだ……ありのまま力を受け入れよ)






 …………ドクン…………ドクン。





「ぐぁぁぁあ…………がぁぁぁぁああああ」


 俺の体の中で、暴力的な力が暴れまわる。

 

 悲しみ、怒り、憎しみ、絶望、妬み、苦しみ。


 ありとあらゆる、負の感情が俺の中で渦を巻く。


 苦しい苦しい苦しい苦しい。

 

 痛い痛い痛い痛い。

 

 体がバラバラになる。

 心が砕ける。



 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」




「ギース!!!!下がれ!!!!」


 命令を受けて、慌てて四つ腕の魔族が下がる。


「なんだこの禍々しいオーラは?!」


「おいおい!!リベル隊長、こりゃまずいんじゃねーか?」


「そして…………この魔力量。ガルディウス様に匹敵するぞ…………エイダ!!守護を張れ!!」


 翼が生えた魔族は、命令を受けると宙に浮かぶ。


「わかりました。援護お願いします!!」




 どす黒い感情が押し寄せる。

 あらゆる負の感情が、流れ込む。


 抑え込むことができない。

 いや。

 その必要がないか。


 あいつが言った。

 ありのまま受け入れろと。


 ああ…………。

 そうしよう。





 暴れまわっていた魔力が静かになった。

 その次の瞬間、大きな鼓動と共に、俺の心は闇で染まり切った。




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魔導大戦~Abyss Contract~ 如月 翔 @xxx_01_xxx1

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