幸せを知り、幸せになる。そんな復讐もある。

 他の人と違う。

 ただそれだけで、生まれた時から虐げられていた少年。
 いや、彼には虐げられているという実感すら覚えられていませんでした。
 それは、虐げられていない時期を知らないから。
 対比できる幸せな時間を体感していないのです。


 不遇な境遇を実感できない少年はついに追放されます。
 そこでも彼は、対価として役に立つ自分に喜びを覚えるほど、歪で悲しいココロしか持っていません。

 魔女の秘薬の代金。
 そんな立場であっても、死の恐怖を越えて得たいモノがありました。

「愛されたい」
 それは無意識の叫びだったのでしょうか。

 もちろん愛情という概念もよく分かりません。
 かろうじて、他の人々が営みの中で見せるその感情を客観視して「理解しているつもり」になっているのです。
 だから仕方ありません。

 初めて自分を「見て」くれたその人を、無条件で好きになってしまったとしても。

※※※※

 物語は続いていますが、私なりに大きな山場を越えたと感じたので、一旦レビューをさせていただきます。

 本作は、不遇、不幸、追放、出会い、仲間、成長と「ざまぁ」につながるエッセンスに溢れています。
 広義としては復讐の物語なのかもしれません。

 ただ、彼、アレクシスくんは、底抜けに明るく前向きな少年です。
 悲惨な境遇にも関わらず、彼のモノローグはいつもほのぼのとしていて、それが救いでもあり、悲しくもあるのです。

 それはつまり、彼はまだ自分が置かれていた悲しみの地平を認識できていないのからなのです。

 知ることで過去を追認し、彼はもう一度地獄を味わうことでしょう。

 それでも彼は今、必死で学んでいます。
 それは真っ当な「ココロ」を得る為に必要な時間。
 すでに固定されてしまったヒエラルキーの是認を覆すのは容易ではありませんが、大切な人々に囲まれて、彼は一歩ずつ、新たな気付きを得ながら自分を育てています。

 識ることで未来を希求し、彼はもう二度と幸せを離さないと思えるはずです。

 そしていつか、二人が、呪われた運命すらも越えられると信じています。

 だって、ほら、大切な人を表す花言葉に隠れてる。

「あなたと一緒に心がやわらぐ」


 本作は、そんな素敵な物語なのです。

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