魔女が不老不死だなんて誰が言い出したんですか?

卯月ましろ@低浮上

序章

第1話 アレクシス

 魔女は美しい。魔女は賢い。そして魔女は、不老不死だ。人とは生きる時間が違う。


 永遠の時を生きてきた魔女は、きっと今までにたくさん寂しい思いをしているんだろうな。だって、もし好きな人ができても、この世界に自分だけ取り残されちゃうじゃあないか。何度も何度も好きな人と死に別れなくちゃいけないなんて、そんなの可哀相だ。

 魔女は僕なんかよりも、ずっとずっと可哀相で――安心する。




「――アル! アレクシス!! 何をしているの、早く井戸水を汲んできなさい! 可愛い弟のために働こうという気はないの!?」

「……はーい、母さん。行ってきまーす」


 母さんにどやされて、バケツを手に裸足のまま家の外へ飛び出した。


 僕の名前はアレクシス。ただの村に生まれた、ただの子供。たぶん12歳くらいだけど、あまりご飯をもらえずに育ったから……村の他の子たちと比べると細っこいかも。骨と皮って、きっと僕のためにある言葉だ。油でカラッと揚げてせんべいにしたら、いいおつまみになるんじゃあないかな。


 僕は父さんと母さんの子のはずなのに、どうしてか2人に似なかった。

 家族は全員黒髪なのに、僕だけ真っ白なんだ……変だよね。いつも帽子を被って隠さなくちゃいけないのは面倒くさいけど、でも隠さなきゃ「気持ち悪い」っていじめられちゃうから仕方がない。


 村の人から変だ、呪いだって嫌われちゃって、父さんたちは僕のことが煙たくて仕方がないみたい。なんだか迷惑をかけちゃって申し訳ない気持ちはあるけれど、でも僕だって好きで白髪に生まれたわけじゃあないしなあ。

 どこか遠くへ行こうにも、子供の僕じゃあどこへ行けば良いのかすら分からないよ。


 ――しばらく走ると、村の井戸についた。井戸の周りには洗濯をしている女の人がたくさん居たけれど、僕の姿を見るなり皆どこかへ行っちゃった。

 近付いただけで呪われるって思われているんだから、仕方がないね。それを信じる子供たちは、遠くから石とか泥とかを投げてくる。でも僕は、卵を投げられるのが一番嫌いかなあ。食べ物を粗末にするのは嫌だし、怪我はしないけど匂いがつくから……僕はお風呂にもなかなか入れてもらえないしね。


 井戸のロープを掴んで、頑張って水を汲み上げる。

 ただでさえボロボロの手が縄で擦れて、せっかく止まっていた血がまた出てきた。でも頑張らなくちゃ、弟のジェフリーが熱を出してずっと寝込んでいるんだよ。


 ジェフリーはもう、1週間は熱が下がらずに苦しそうだ。村には薬師のおばあさんが居るけれど、『魔女の秘薬』でもなければ治せないひどい病気なんだって。父さんが『魔女』を探しに行ってから3日が経つ。……でも、魔女なんてどこに居るんだろう。

 このままじゃあジェフリーが死んじゃう。ジェフリーが死んじゃうと、きっと呪われた僕のせいだって怒られちゃうだろうし――早く魔女が見つかると良いなあ。


 気付けば、痛いとか悲しいとかそういうのはもう、よく分からなくなっちゃった。でも怖いものはある。

 どうせ僕は、ここで生活を続けていたら大人になれずに死んでしまうと思う。食べられるご飯も少ないし、いつ病気になってもおかしくないし……当たりどころが悪い時には、ただの石でも血が止まらなくなることだってあるし。


 このまま死んでしまったら、僕は「愛」を知らずに終わる――それだけが怖いんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る