第2話 アレクシス2

 2つぐらい下のジェフリーは、僕と違ってきちんと黒髪に生まれた。だから父さんと母さんにも、きちんと可愛がられてる。

 僕にはよく分からないけど、ジェフリーは顔も格好いいみたい。顔のおかげで女の子たちからも人気があるんだってさ。

 村の子とも仲良しだから、1週間ずっと熱が下がらないことを皆に心配されてるんだよね。


 もう羨ましいなんて思うこともなくなったけれど、それでもやっぱり、皆から愛されるのは良いなあって思うよ。僕も黒髪だったら、きちんと愛してもらえたのかな。

 もっと小さい時には、ジェフリーと仲が良かったような気がするんだけど――でも気付いたら、すっごく嫌われてた。まあ、父さん母さんがいつも「近付くな」「汚い」呪われる」なんて言うんだから、嫌われて当然だよね。


 僕のことを嫌いになったジェフリーは、ずっと僕を無視する。無視しないのは、村の子と一緒になって何かをぶつけてくる時ぐらいかな。

 せめて、もう少し柔らかくてふわふわなものを投げてくれれば、一緒に遊んでるみたいで楽しいのにね? 僕ってば運動神経が悪いのか上手く避けられなくて、いつも怪我しちゃうからあんまり楽しくないんだ。

 だって血は出るし、傷跡は引きつれて肌がボコボコになるし――たまにグジュグジュになって熱が出ることもある。熱が出たって仕事はなくならないから、ヤだよねえ。


「アル、やっと戻ってきたの!? 本当にアンタは鈍くさいわね……!」


 井戸水を汲み終わって家に帰ると、今度は母さんに「さっさと薪割りをしなさい」って怒られちゃった。父さんが魔女探しに出かけてるから 力仕事をする人が居ないんだ。

 ここ毎日斧を振っているから、手のひらのマメが潰れっ放しだ。腕もパンパンで上げるのが大変だよ。何だか背中も痛くなってきたし、こんなに大変な仕事を毎日していた父さんは凄いな。


 でも――血豆で斧の持ち手を汚しちゃってるから、これきっと父さんが帰ってきたら怒られるなあ。毎日拭いたって次から次へ血が出てくるんだもん、キリがないよ。

 薪割りが終わったら、今度はその薪でお湯を沸かすよ。もうすぐお昼だからね。

 僕は色んな仕事をしているけど、でもご飯づくりだけはやらせてもらないんだ。たぶん、血と泥で汚れた手で食べ物に触られるのが嫌だっていうのと――母さんは、僕につまみ食いさせたくないんだと思う。


 皆に「やっちゃダメ」って言われたことはやらないようにしているけど、でも確かにずっとお腹が空いてるから、絶対にやらないとは言い切れないもんね。これも仕方がないかな。


 家の裏の窯に薪をくべていると、家から美味しそうな匂いがしてきた。ジェフリーのご飯かな――でも、僕の分はないと思う。あとで森へ行って、食べられそうな葉っぱでも探してこようっと!

 今は秋だから、森の中は食べられるものがたくさんあるんだ。木の実もあるし、探せば果物もある。葉っぱも根っこも結構美味しいんだ、いっぱい噛むとお腹いっぱいになるしね。


 だけど、冬が来たら僕はおしまいかも知れないなあ。

 寒さをしのげるだけの服がないし、靴もない。食べ物だって森から消えちゃうし――そうなったら僕は、死ぬのかな? まだ死にたくないなあ、僕だって女の子と恋ぐらいしてから死にたいよ。


 僕が――アレクシスが生きていたって、どこかの誰かに覚えていて欲しいからね。

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