第2話

後から考えると、なんて私は浅はかだったんだろうかと思ったのだけど、面接日当日の朝になって初めて職場の詳細を見た。『グループホーム・サンフラワーヒルズ、仕業務内容は、利用者様の居室及び共同スペースの清掃、買い物の代行、間食及び水分補給の準備、見守りなど』。これって一体どういう仕事なのだろうか?。グループホームってシェアハウスみたいなもの?。そこの管理員ってことなのかな?。でも間食及び水分補給の準備ってどういうこと?。共同スペースにお茶の準備でもしておけってことでいいのか?。今更ながら何にもわからないのに何で面接を受けることにしたのか、我ながら理解できない。まあ、行ってみて合ってなさそうとか、相手の方も『これはダメだ』と思ったら採用されないだろうし、兎に角行くだけ行ってみようと私は面接の指定場所へと向かうのであった。


そこは私の実家からJR線で1時間弱だけど、県はまたぐ。地方都市の隣の市で多分駅からバスで少し行けば、田畑が広がるようなエリアだった。田舎と言えば田舎だけど、幹線道路沿いには大型量販店やらレストランのチェーン店が軒を連ね、ちょっと黄河にはアウトレットやら、大型スーパーやらがあり、多分車さえあれば便利な所。

多分ね。

面接会場は駅前からバスで15分。バスは1時間に1本。やはりここは車社会の街らしい。バスが来るまで後30分、仕方なく私は停留所のベンチに腰を下ろした。因みに駅前は何だか閑散として寂しい。昔デパートだったのかと思われる古びたビルが建っているけど、不動産屋の看板が目に付くばかり。そんな風景をボーっと見ていると、突然1台の車椅子が猛スピード(と感じた)で目の前を通り過ぎた。

車椅子って、こんなにスピードが出るんだ!!。多分電動車椅子ってやつだ。ちょっとだけ呆気にとられた私をしり目に車椅子は通り過ぎて行ったのだった。


着いた面接の指定場所は5階建ての建物。おそらく地方ならではの広々とした敷地の庭にはおそらくひまわりと思われる植物が何本も植えてあった。

呼び鈴を押すと、迎え出てくれたのは、初老の婦人。ポロシャツにチノパンという身なりだったが、髪とか化粧とかきちんとしている感じが見て取れる。

「有田さんですね、私は代表者の岡 喜代子と申します。さ、こちらにどうぞ」とスリッパを勧められ通されたのは、ソファとテーブルだけが置いてある部屋。

「ここは面談室です。」

「面談室・・?」

面談室とは何ぞやと思いながらも、岡さんに履歴書を渡す。

「◯◯大卒で、◯◯社にお勤めだったのですね。失礼だけど、なんでお辞めになって、ここに来ようとおもったのですか?」

私は一瞬戸惑うが、こうなったら全てうちあけよう。後の判断はこの岡にお任せしようと思うのだった。

「前の会社は事務職のですが、失敗ばかりで皆さんにご迷惑ばかり掛けてしまい辞めました。前の仕事とは全く違う仕事をやってみたくて・・・」

「なるほどね。」

岡さんは優しく言った

「苦手な仕事を1年頑張ったというのは偉いわ。投げ出さずにきちんと辞めて来たのわ。でもね、ここの仕事もあなたにとって大変なこともあるし、きちんとやってもらわなくてはならない仕事なの。そこは理解してね。掃除や洗濯でもプロ意識をもってやって欲しいの、それとここの利用者さんたち、お互い慣れないうちは気を使うと思うし・・」

「利用者さん?」

と、その時だこの面談室に、一人の小柄の男の人がノックもせずに飛び込んできた

「岡さーん、おやつの時間ですよー」

と叫ぶ。

「あら、久仁彦くんごめなさいね、でも今お客様が来ているからちょっと待ってくださいね。

「お客様?」

「そう、新しいお世話係さんよ」

「澤田くんの代わりの人?」

「そう、澤田くんの代わりに来てくださった方よ」

「やったー!!、じゃこの人もホットケーキ焼いてくれる?」

「それはどうかな、さあもう向うで待っててね。」

「はーい」

久仁彦くんと呼ばれた人は部屋を出て行った。

「ごめんなさいね、あの方は久仁彦さん。見た通りダウン症なの。見た目がキュートだけど、アラサーなの。立派な大人なので子ども扱いはダメよ・。」

「はあ」

私の頭は混乱するのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お茶入れましょうか? @mi53do

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ