始 へんてこなわたしたちのいきみち

「でも」「ん」「やっぱりお姉さんには覚えてて欲しいな本当のわたしだけでも」「無理ハムカツ先生の睡眠授業と一緒に忘れてる」「ひど」泣いたせいで赤くなった頬を膨らませてる。これがきっと本当のこの子なんだよね。


「一応言っておくけど本当の君自身はしっかり覚えてて好きでいてね。他人に惑わせられたらすぐに忘れちゃうから。自分もこの世界も超大好き100愛せなんてそんなバカなことはないけど1か2くらいの情は持ってないと簡単に殺せちゃうよハゲじじいにしろ君をこれからいじめてくるようなクソガキにしろ他人の影響で自分なんて」



「うん」



 そういえば


「ホームベースって何者か知ってる?」「分からんないけど気づいたらいた」

 やっぱり知らなかった。だけど、わたしにはあの猫がなんだったのか何となく分かる。きっと彼女のためのヒーローもどきだったのだ。この街を塗り潰したのもわたしと合わせたのも全部この子のためだったし。


 観覧車を降りると、ホームベースがまた偉そうに仁王立ちをしてらぁと見てたら器用にお辞儀をしてくれました。


「なんとかなったよ」


 無愛想なホームベースが初めて笑いました。


「本当にありがとう助かった。これであいつはもう」


 わたしは蛇太郎で何回も殴ってホームベースを毛の生えたミンチにしました。

 ハンバーグにするには不潔だよねなんて思ってると蛇太郎の口が尻尾から離れて、気づけば住宅街のアスファルト舗装された歩道にわたしたちは倒れてました。


「どうして」


「あいつが塗りつぶした世界だからね死ねば消えるかなって」「大胆すぎじゃ」「わたし活動的だからねそれに」


「あれは君のヒーローもどきで現実にそんな奴いないしいるわけなし。他人が救うとか言ってたけどそれも嘘。絶対嘘。自分が自分のヒーローになるしかないんだよ他人任せじゃダメなんだからね。ホントはきっかけだって自分で作りに行かないといけないんだから」



 じゃねといってさっさと別れようとするけどふと思いついた事があった。


「あそうだ最後に」


 少女は首を傾げる。




「君はトマト好き?」






「え」







「わたしは大嫌いよあんな食べ物ぐちょぐちょして酸っぱくて。丸かじりしてるの見るだけでも耐えられない。ま、ケチャップとかピザのソースとかなら大丈夫なんだけど」


「なんのはなし」


「えーとね、つまりさ、どんな人間だって見方次第で欠点なんていくらでもあるんだよ神様じゃないんだから。超絶イケメンだってご飯粒残すかもしれないし飲み終わった麦茶そのまんまにするかもしれないじゃん?わたしはトマトを丸かじりするならどんなイケメンでもスパダリでも許さないよ。汚らしい。だけどそーいうとこ見ないと人間なんて薄っぺらい絵だよ絵。まぁ認めなくてもいいけどちゃんと見て知ってかないと。上手く言えないなホント……。あーごめん今のやっぱなし早く忘れて」


 ぽかんとしてた少女が耐えられないように笑うからわたしもつられて笑いました。かっこはつかなかったけど、他人に対してはそんくらいでいいんだ。一個一個恥ずかしいことを気にしてなんていらんない。


「ヤでもちゃんとひとを見て付き合ってかなきゃいけないってことでしょ?」

「数に期待しちゃダメだけどね」とりあえず分かってくれて良かったと思いました。





「一瞬頭トマトみたく潰してくるのかと思った」


 んなわけ。やっぱこわ






「あこれも忘れちゃいけなかった」「やたら引っ張るねお姉さんフジのコマーシャルみたい」  


 また2人で笑う。


「この道をまっすぐ行ってセブンを曲がると交番があるからそこであった事ゆっくり話してさ」 「分かってる」


 今度こそ


「じゃね」  


 歩き始めて少しして振り返ると少女は泣きながら手を振っている。  


 あの子もどうせわたしのことを忘れて多分やり直せる。本当の自分の事を信じていられたら。



 信じる事ね、うん。……あれ?










「あ、数B課題あんの忘れてた!」  

 急いでLINEのグループで答えを教えてと深く深く伝えたけど

 

 何回目だよ徹夜して頑張りな

 そーだよたまには自分でやんないと  

 自分の力信じて!

 ファイトー!




 はいやーとだけ返信して走って家に帰る。  その後頭の中は課題のことで一杯であの子の事なんてやっぱり夢だったのねとすぐ忘れる。


 だけど次の日の朝、食パン片手にニュースを見た時にはさみ町の道路が映っててあぁホントにあったんだなぁと少し思い出す。「物騒な事件ね」「ね」「それも犯人が小学生の女の子だなんてねなんか色々あったみたいだけど」「そだね」「テレビの人とかいっぱいいるだろうから邪魔しないでね」「ん」


 まぁ大丈夫でしょとパンを口に押し込みバッグに荷物を詰め込んで家の扉を開ける。  


 朝日はいきみちを強く照らしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いきみち 呉 那須 @hagumaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ