女神様の押せばいける感


「へ、陛下! 貴様、何てこと…「何だ次はお前か?」…あ、いえ…」


 貴族の一人が声を上げたので黙らせる。貴族は汗を滝のように流しながら下を向いてガタガタと震えている。


 その時、部屋に男の絶叫が響いた。そっちへ視線を向けると、グリーズランドが全身血だらけでボロボロになったベルガ・シュレーの頭を掴んで持ち上げていた。


「そっちは終わりか?」


 俺の言葉にグリーズランドはチラりとこっちを見てから視線をベルガ・シュレーへと戻す。


「ああ。後は仕上げだけだ」


 仕上げ?


「…コイツを地獄へと連れて行く」


 そう言ったグリーズランドの手には一枚の羊皮紙が握られていた。…あれは。


「おお? …いつの間に」


 ギドが驚いて声を上げる。…あの羊皮紙は例の”契約書”か。


「勇者ハルト。重ねて頼みがある…」


「今度は何?」


「その聖剣で儂ごと契約書を貫いてくれぬか?」


「…別にいいけど理由は?」


(ぇー)


 そう言った瞬間アカネが嫌そうな顔をする。気持ちはわかるけど落ち着いて。


「この契約書は普通の方法では傷つけることすらできん。だが聖剣ならば或いは…」


 そこまで言い、一度言葉を口を区切ってからまた口を開く。


「ここまで堕ちた儂は死んでもアネリと再会することはできぬだろう。ならばせめてこの男の魂を地獄へと引きずりこんでやろう」


「…わかった」


(ぇぇー(ぺちぺち))


 今度は嫌そうな顔だけでなく、小さな手で俺の頬をぺちぺちと叩く。…そんなに嫌?

 俺としてはこの男の気持ちはわからないでもない。俺だって茜の仇を打つためならなんだってするだろう。それこそ世界だって犠牲にすることも厭わない。


「…すまぬ」


 俺の困った顔を見て、何を勘違いしたのか謝罪をするグリーズランド。


「…悠人」


 そしてそれまで黙っていた桜花まで心配そうに俺の名前を呼んだ。


「……」


 アカネ…少しだけでいいから大人しくしてて。


(はーい)


 流石アカネ天使…いや、女神か。

 気を取り直してグリーズランドと向かい合う。


「じゃあな」


 俺がそう言うとグリーズランドはふっ…と笑い。


「勇者ハルト…貴様とは普通の戦場であいまみえたかったぞ」


 そう言った。


 全裸で。


 俺はアカネで契約書ごとグリーズランドを貫く。その瞬間、黒い炎がベルガ・シュレーごとグリーズランドを包みこむ。

 ベルガ・シュレーの悲鳴と獣の咆哮が辺りに響き、それが聞こえなくなるとそこには黒い炭だけが残されていた。


 終わった?


(んー……)


 それを見ながらそう訊くと、目を瞑り少しの間唸っていたアカネがぱっと目を開く。


(うん。もう大丈夫。あの契約を結んだ相手の気配も消えたから)


 どういう意味?


(多分だけどー……契約書を通じて向こうにもわたしの力が届いたみたい)


 ……ん? それなら取り敢えず残ってる契約書も貫けば、ここにいる貴族も、生き残ってるかもしれない魔王軍の残党も一緒に始末できる?


(かも)


 おお、それならちゃんとコイツ等を”反省”させてからサクッと終わらせるか。


(ぇー、またやるの?)


 ……全部終わったら何処か好きな所に連れて行くから。


(むぬー……うん、わかった)


 流石女神アカネ


 俺は壁にめり込んでいる皇帝は取り敢えず放置して、部屋の隅の方で震えている貴族達へと近づく。


「待たせたな。それじゃ先ずお前」


 そう言ってから拳で一番近くにいた貴族の顎を砕いた。


 ―――――――――


 悠人「何で契約書を斬るのを嫌そうにするの?」


 アカネ「んー……なんか道端に落ちてるよくわかんないものを踏んづけてる感じがするの」


 悠人「……犬のウ◯コ的な扱いなんだ」

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最近ツンツンしてた幼馴染み彼女に、別れを告げようとしたら異世界に召喚されました。 ~ 異世界救って帰ってきたから彼女を幸せにしようと思います。え?別れませんよ? ~ @enji2815

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