大丈夫。まだ勝利宣言に見える


 初めての全裸がグリーズランドってちょっと許されないと思う。

 いや、それより…


「何で生きてるんだコイツ?」


(”生きて”はいないと思う、契約内容にもよるけど…)


 …動く死体的なものかな?


 なんと グリーズランドが おきあがり な…


 →いいえ


「まさか他人の死体まで使って…儂もここまで堕ちたか」


 他人の死体?


(さっきそこにあったやつ)


 アカネはそう言って今グリーズランドが立っている場所を指差した。

 確かにあそこには貴族っぽいのと騎士の死体があった…というか、先程グリーズランドが首をはねた男の死体も消えてる。


 他人の死体を使って自分の肉体を再生って、永久機関できそうだな。


 もうひとつ気になることがあるとすれば、死体の服も無くなってるのに何故奴は裸なんだ…?


(悠君落ち着いて脱線してる)


 そんな…アカネに軌道修正された……。


 …答えてくれるかわからないが一応訊いてみるか。


「お前は一体どんな契約を誰としたんだ?」


「悪いが誰と契約をしたかは答えることはできん。 契約により縛られておるからな…。」


 ただ…とグリーズランドは付け足し。


「儂は妻であるアネリの死の真相を求めた、そして契約により真実を知り復讐をしようと…」


 そう言い金髪の男に射殺すような視線を向ける。


「…だがその瞬間に”対価”を持っていかれてしまったのだ。そこからは頭に霞がかかったように正常な思考ができなくなった。 ただ戦いたいという欲求に抗うことができなかった…恐らくこうしてマトモに会話できる時間はあまりない」


 あれ、もしかして戦闘狂なのって素?


「頼みがある勇者ハルト」


 グリーズランドは俺を真っ直ぐ見てそう言った。

 うーん、別に訊いてやる理由は無いが。


「何だ」


「そこにいる金髪の男、ベルガ・シュレーは儂に殺させてくれ」


 そう言って金髪の男を指さす。


「っ…この死に損ないが」


 金髪の男は顔を青くしたまま憎々しい顔でグリーズランドを睨む。


 ……どうする? 俺としては全員俺の手で始末したい所だが。


「その男がお前の仇なのか?」


「正式にはこの男も…だ。 コイツはシュレー家の名誉と名声の為に、自分の息子を勇者に仕立てあげるよう裏で色々汚いことを繰り返してきた。 魔王軍との取り引きもその一つ、それを知った儂は当然反対をした。…それが間違いだったのかもしれん」


 そう言ったグリーズランドは絶望、怒り、悲しみ。そんなマイナスの感情をごちゃごちゃに混ぜ合わせたような顔をしていた。


「わかった、好きにしろ。その代わり残った奴等は全員俺がもらうから」


「…感謝する勇者ハルト」


 グリーズランドはベルガという男に向かって。俺は皇帝と他の貴族へとゆっくりと近寄る。


(いいの悠君?)


 本音を言えば良くはないけどね。ただ…愛する人の仇をとりたいって気持ちは痛いほどにわかる。

 俺なら了解なんかとらずに殺すと思うし。


(…うん)


 皇帝達はこの期に及んで互いに罪を擦り付けあっていた。もう”誰が”一番悪いとかどうでもいい問題だ。

 裁判をしたところで全員死刑だろうし。はっきり言って時間の無駄だ。

 …というか教会主導の裁判なんてすれば下手したら一族郎党処刑もありうる話だ。


「…誰から死ぬか決まったか?」


「ま…待つのだ勇者ハルト!」


 そう言って皇帝が這いずりながら此方へと近寄ってくる。


「お前からでいいんだな?」


「と…取引をしようではない…ぶべぇ?!」


 俺は思わず皇帝が全て言い終える前に顔面に拳を叩き込んだ。

 皇帝はそのまま吹き飛び、壁にめり込んでピクピクと痙攣している。…寸前で手加減したけどまだ死んでないよな…?

 コイツにはちゃんと自分達が何をしたか体へ叩き込んでから死んでもらわないと困る。


(うぃなー悠君っ)


 だからアカネは勝手に俺の腕を掴んで上へ持ち上げるのは止めてほしい。お願いします。


 ―――――――――


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