班による実技試験が行われる事に

「うっ……ううっ、私は」


「……目を覚ましたか」


「ゼストさん……私は」


 ティアが目を覚ました。ゼストはティアの頭が痛まないように、膝枕をしていた。膝枕……。膝枕とは普通、女性が男性にするものではないか。これでは男女が逆になっているのではないか、とも思わなくもない。だが別にティアに膝枕をして欲しいとか、そういうわけでもない。


「ゼストさん! ……私、すみませんっ!」


 ティアはゼストに膝枕をされている事に気づいた。その為、跳び起きて距離を取った。


「いや……別にいい。そんなに謝らなくても」


 周囲は既に暗くなっている。

 時刻は既に夜になっていた。相当、時間が過ぎたようだ。もうすぐ夕食時だろう。寮生活には門限というものがある。その為、そろそろ帰らなければならない頃だろう。


「事情はわかった。ティアは魔力が高いが、その魔力を制御できていない……っていう問題を抱えている事は」


「は、はい……そうなんです」


「確かに、俺が教えればティアのその問題は解決できるかもしれない」


「本当ですか!?」


 ティアは驚いたように声を張り上げる。


「だけど、事情がわかったとしても、俺がティアに協力しなければならない理由はないんだ。俺達はただのクラスメイトだ。最近、同じクラスメイトになったばかりの。だから、俺はティアに魔法を教えるだけの義理はないんだ」


 世の中は何でもギブ&テイクだ。公正な関係というのは、天秤が釣り合っていなければならない。ゼストは慈善事業(ボランティア)を趣味にしているわけではないのだ。悪人ではないが、それでもお人よしの善人というわけではない。


 魔法を教える事に、メリットがなければわざわざ教える理由を感じない。確かに彼女は可哀想ではある。魔法の名家であるフォーリナー家に生まれ、類稀な膨大な魔力——高い資質だ。ゼストの見立てからすると、間違いなく。そしてその高い資質を活かしきれずに持て余し、さらには同級生から迫害を受けている。


 同じような境遇になっているとはいえ、ゼストの目から見ても彼女は不憫で仕方がないように思う。


 だが、同じように不憫な学生は他にも多くいるだろう。ゼストにはそれら全ての人々を救うだけの時間はないし、彼女だけを特別扱いするわけにはいかない。そんな義理もないのだ。


「お、お金なら払います! ゼストさん、私の家庭教師になってください!」


 家庭教師と言われても。


「別にいい……俺は金に困っているわけじゃない」


「だったら……何でもしますからっ! 私、悔しいんです。虐げられて、馬鹿にされて。フォーリナー家の生まれである事で、猶の事、猶の事酷い扱いを受けて」


 彼女は涙を流していた。反則だ。女性の涙というのは。こちらに別に非があるわけでもないのに、なんだかこちらが悪いような気分になってしまう。


「その気持ちはわかる……ただ、こちらとしてもすぐに答えられる事じゃないんだ。少し、考えさせてくれ」


「は……はい。無理を言ってすみませんでした」


 ティアは涙を拭った。


 ――だが、それからしばらくの時を経て、ゼストはティアに魔法の手解きをする事になるのであった。


 その理由とは――。


 ◇


 その後、本格的に学院における授業が始まる事となる。そしてそれからしばらく経った後の事だった。実技試験について、アナウンスがされる事になる。


「実技試験について連絡があります」


 そう、担任教師であるメアリーからHR(ホームルーム)で伝えられる。


「実技試験は班による対抗戦です……。5人一組で班(チーム)を作ります。そして、その班(チーム)による実技試験が行われる事になります」


「実技試験ですか?」


「はい……今から三か月後、前期の授業が行われる時に行われる試験です。その実技試験はクラスの垣根を超えた試験です。ですので、Fクラスの班のみで闘うわけではありません。АクラスからFクラスのチームによる、トーナメント戦が行われるのです。そしてその結果に基づいて成績が算定されるのです」


 メアリーがそう説明する。


「今から三カ月、これからくじ引きで決めた班により、実技試験で優秀な成績を修める事を目指してください。言っておきますが、我が校は入学自体は難しくありませんが、卒業する事は簡単ではありません」


 メアリーは表情ひとつ変えずに笑顔のままで告げる。そのギャップが何となく、Fクラスの生徒達にとっては恐ろしかった。


「特に、このFクラスの生徒の場合は要注意が必要です。成績が悪い場合、退学処分も検討されますのでよく留意しておいてください」


『退学』。学生にとっては死刑宣告とも言って言いようなその重い言葉に、このFクラスはどよめいていた。


「それではこれより、班分けを発表します」


 そして、くじ引きが行われ、班の発表が行われる。その5人組による班。つまり、ゼスト自身で一枠埋まるのだ。残り、4人、という事になる。そのうちの一人にあの魔法師のティアが選ばれた。そして、その残り3人もまた癖の強い生徒達ばかりだったのだ。


 元々、Fクラスは問題児や劣等生ばかりが集まっているクラスだ。そういう曰く付きの生徒達が集まっている、特別クラスと言っても過言ではない。


 そんなクラスで班分けをすれば、ティアを初めとした問題のある生徒が振り分けられる事は当然の事と言えた。


 この班分けの結果……渋々ではあるが、ゼストはティアに魔法の手解きをする事になるのであった。


 ――だが、問題はそれに留まらない。残りの三人の方だった。その三人の方も、ティアと同じく問題のある生徒達だったのである。


 しかし、ゼスト率いるこのチームが実技試験トーナメントにおいて、大きな波乱を起こしていく事になるとは、この時はまだ誰も想像すらしていなかったのである。



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Fランクの最強魔剣士。魔法を極めし前世最強の賢者。魔力適正0の無能としてと実家を捨てられる~だけど、そもそも現代の魔法理論が間違っていたようです。冒険者学院ではFランク扱いですが剣も極めて無双します~ つくも @gekigannga2

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