ティアに魔法を教えて欲しいと頼まれる
「……どうして、俺にそんな事を頼んでくるんだ?」
「私、一目みてわかりました。あなたが『魔力0』だというのはきっと何かの間違いなんですっ! あなたはきっと、本当は凄い魔法師の方なんですっ!」
ティアはゼストの手を強く握ってきた。温もりを感じた。
「うっ……」
幼い頃に捨てられ、辺境で育ったゼストにとって、女性という存在は未知の生物のようなものだった。免疫がなかった。
その為、酷く動揺し、赤面してしまった。
「ご、ごめんなさいっ! 急に手なんて握っちゃって、私」
「い、いやいいよ……別に。謝らなくて」
ティアは握っていた手を放す。
「それより……どうして俺に魔法を教えて欲しいんだ?」
「私はフォーリナー家という魔法師の家系に生まれました……ですが、私は生まれつき、魔法を上手く扱えませんでした」
「魔法を上手く扱えない?」
「ええ……だから、私はこの学院でFクラスに振り分けられたんです。その事が彼女達のような人間にとって、標的にしやすかったんでしょう」
彼女はただの落ちこぼれ(Fクラス)ではなかった。魔法師の名家であるフォーリナー家の出自である。ただの落ちこぼれよりも、叩きのめした時の優越感がずっと大きい。
こういった人間はさっきのような行為の標的になりやすいのだ。それは勿論、ゼストについても言える。魔力測定で0という数字を叩き出し、そしてルナリアに剣技で敗北したゼストは悪い意味で目立っている。
こういった人間はただの落ちこぼれ(Fクラス)よりも、標的にされる確率がずっと上がるのだ。
「私は悔しいんです! ……彼女達のような人間に馬鹿にされるのも。全ては私が魔法師として未熟だったから! だからあんな扱いを受けるんです」
「……そうか。君の想いはわかった」
「す、すみません……急にこんな事をお願いしちゃって」
「すぐにどうこうは言えそうにもない。君がどんな状態なのかを俺は知らない。今は昼休みだ。まだ午後の授業がある。放課後、校舎裏で待ち合わせをしよう。君の魔法を見せて欲しいんだ」
「は、はい! わかりました!」
こうしてゼストは放課後にティアと待ち合わせをする事にした。ティアの魔法を見せて貰わなければ、どうしたらいいのかもわからない。まずは状況を把握しなければならない。ゼストはそう思ったのだ。
◇
放課後の時刻になる。ゼストとティアは待ち合わせた。校舎裏で二人きりになる。まるで二人だけの秘密特訓のようだった。まるでというか、実際そうなんだろうが。
「それじゃあ、詳しい状況を把握しようか」
「は、はい!」
「まず、魔力測定の結果だ。教えて貰ってもいいか?」
「は、はい! 魔力測定の結果は『2125』でした」
『2125』この数字はルナリアのような、学生離れした化け物と比較すれば低いかもしれないが。それでも、先ほどCクラスの連中が自慢していただろう。
その魔力数値よりも相当に高い数字であった。魔力測定の結果だけで言うならば十分にАクラス相当の数字だ。
「高いな……流石は魔法師の名家であるフォーリナー家の生まれだけの事はある」
「い、いえ……そんな事はないです」
ティアは謙遜した。だが、同時に疑問に思われる事があった。なぜ、それだけ高い魔力測定の数値を叩き出しているのに、ティアがFクラスに振り分けられたのか。絶対に何か理由がある。理由がなければFクラスに振り分けられるはずもない。
「だけど、それだけ高い魔力測定の数字を出しているのに、Fクラスに振り分けられたのはきっと何か理由があるはずだ。その理由を話してくれないか? 出ないと話が進まない」
「それは……私がきっと、魔法を上手く扱えないからです」
「魔法を上手く扱えない?」
「はい……私は魔力自体は高くても、その魔力を扱え切れていないんです。だから私の魔法は使い物にならないんです。それがきっと、私がこの学院でFクラスに振り分けられた理由なんです」
切実な様子で、ティアはゼストに語り掛けた。
「ふーん……そうか」
ゼストは周囲を見渡す。事情はわかった。言葉で説明するより、実際に見せて貰った方が話が早いことも多い。
「ティア、魔法を使ってみてくれないか?」
「で、ですが……」
ティアは躊躇った。
「良いから……周りに人もいないし。言葉で説明するより、理解が早いんだ」
「わかりました」
躊躇いを見せたティアではあるが、ゼストに言われ、決心がついたようだ。
制御できない力というのは危険なものだ。力がないというだけなら無害だ。だが、制御できない力は周囲に害を齎す。ある意味無力な無能よりも厄介な存在に成りかねないのだ。
だが、ティアはその力を解き放つ。今まで発していなかった自身の魔力を解き放つ。
――結果。ティアの全身から夥しい魔力の奔流が起きた。その力は天高く伸びていく。
「……これがティアの魔力か」
ゼストは感嘆とした。その魔力のエネルギー量自体はАクラスに相当する程に高かった。
「くっ……ううっ」
だが、ティアは苦しんでいた。自身の魔力に対する制御ができていないのだ。ティアの魔力が暴走を始める。
魔力がまるで暴れ馬のように、予測不可能な動きを見せた。校舎を破壊せんと、襲い掛かっていく。
「ちっ!」
ゼストは舌打ちをした。そして、ゼストは前世に培った、賢者としての魔法を解き放つ。
ゼストは測定不能な程の魔力を持っていた。だから、ゼストはティアの魔力の暴走を止める事ができた。
『魔法無効化(キャンセリング)』だ。
ゼストは現代に伝わっている大抵の魔法を無効化する事ができた。暴走していたティアの魔力を一瞬にして、無効化(キャンセリング)する。
「はぁ……はぁ……はぁ」
「大丈夫か、ティア!」
ゼストはティアに駆け寄る。
「やっぱり……私の思った通り、ゼストさんは凄い人だったんですね」
「ティア!」
膨大な魔力を解き放った事で、相当にティアは疲弊していたのだろう。意識が朦朧としていた。
そして、ティアは意識を失ったのだ。
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