まず丁寧な情景描写に圧倒されます。
そして、土方歳三さんの想いが胸を打ちます。
新選組に関しては、あまり詳しくないのですが、そんな私でも、作品内での新選組は、斜陽産業(?)である事はわかります。
あまりにも有名で、歴史的に見て多くの読者は、この後新選組がどういう運命を辿るのかは知っていると思います。
だからこそ、敢えてここの場面を切り取って描写した作者様のチョイスは凄いと思います。
この文字数で、この内容を描けるんですね〜。史実に基づいた小説だから、多くを説明しなくても、読者が勝手に色んな想いを汲み取ってくれる。
この後、新選組が大活躍して、連戦連勝なんて事は、あり得ない訳ですから。
そこまで踏まえた名作であると思います。
最後に念押しで、まるで見てきたかのような景色の描写が素晴らしいです。
新選組といえば、京の壬生に居を構えて、刀を振るって、京の治安を守りつづけたというのが、華として知られています。
しかし――維新回天、大政奉還と、幕府の衰勢に従って、新選組の戦いの舞台も、東へ北へと流れていくことになります。
後世の我々の目から見ると、箱館へと至るその苦闘の軌跡は、あたかも京において旭日昇天のごとき新選組が、落日の侘しさと儚さを感じさせるものがあります。
本作は、その新選組の落日の一幕を描いています。
甲陽鎮撫隊として後に知られるそれは、この後の戊辰戦争の舞台が東北であることから、結果は言うまでもないでしょう。
そういう、暗雲立ち込める新選組――近藤勇と土方歳三が、故郷である武蔵野を征く時、その胸中を去来するものは何か――
淡々とした文章で語られるそれは、哀しさと切なさと――美しさがあります。
ぜひ、ご一読を。