第18話 エピローグ



 

 あくる日から、クロはお墓へ通う犬になった。


 朝、目覚めるとすぐお墓へ向かい、何時間でも一郎のお墓の前に座っている。

 夕方、一郎が帰宅する時間になると、クロはふたたびお墓へ出かけて行った。

 


 桜吹雪の舞い散る春の道を……🌸

 雷鳴のとどろく夏空のもと……⚡

 落葉が降りしきる秋の夕べ……🍁

 吹雪が吹き荒れる真冬にも……❄


 

 クロは1日も欠かさずにお墓へ通った。

 めぐりめぐる季節のなかで、クロの背中はだんだん小さくなってゆく……。

 

      *

 

 クロは身じろぎもせず、お墓の前にたたずんでいる。

 老いた背中に、花びらのような牡丹雪が降りかかる。

 


 クロは一郎の声を聞いていた。

 孝夫と洋子の声を聞いていた。

 ハッピーの声を聞いていた。🐕

 


 もう、だれも遠くへ行きはしなかった。

 みんながクロの胸のなかに生きていた。

 

 かすかな風が起こり、ほとんど見えていないクロの眸がうれしそうに輝く。


 雪はしずかに降り積んでいく。

 街も里も野も山もお墓も……。

 すべてを真っ白に塗りこめて。                【完】





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或る黒犬の一生 🐾 上月くるを @kurutan

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