第17話 大好きなとうさんとの別れ
穏やかに歳月が流れていった。
クロもすっかり歳を取った。🍃
あれほどつややかに黒かった被毛もくすんで、白髪が目立つようになった。
人なら高齢者と呼ばれる年代に入ったクロを一郎はいっそう労わっている。
*
春の遅い高原都市にも、そろそろ梅のたよりが聞かれようかという夕方のこと。
しばらく風邪気味だった一郎が、会社からの帰路を運転しながら、今夜は久しぶりにクロを風呂に入れてやろうと、勇んでいつものカーブにさしかかったときだった。
折から降り出した名残雪にハンドルを取られたらしい対向車線の大型トラックが、センターラインを大きくオーバーし、真正面から一郎の軽乗用車につっこんで来た。
一郎の身体は宙を舞った。
*
クロは茶の間からキッチン、玄関から浴室、1階から2階へと家中を駆けまわり、けんめいに一郎のすがたを探しまわっている。探して探して、探して探して……。
――ウォ~ン、ウォ~ン!!
キュイ~ン、キュイ~ン!!
声を限りに呼んでも叫んでも一郎は応えてくれない。
クロは玄関先に座りこんで、ひたすら一郎を待った。
ここにこうしてきっちりとお座りをしていれば、一郎が帰って来て、
「ただいま。ずっと待っていてくれたのかい? いい子だな、クロは」
大きな手で頭をゴシゴシ撫でてくれそうな、そんな気がしていた。
*
お葬式の日、クロはめぐみと広司に連れられて、葬列の犬になった。
美知子の胸で、黒いリボンに囲まれた一郎がやさしく微笑んでいる。
――クロや。みんなに可愛がってもらって、幸せに暮らすんだよ。
葬列が丸山家の墓地へ着くと、
「クロ。今日からおとうさんはここで眠るんだよ」
めぐみがクロに言い聞かせた。
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