第16話 クロ、6匹の仔犬のおかあさんに


 

 白い子、黒い子、白地に黒ブチの子、黒地に白ブチの子……。

 濡れねずみのような仔犬たちが、押し合いへし合いしている。

 毛布に横たわったクロは、そんなようすを満足げに見ている。

 

 ――ミュー、ミュー、ミュー。

 

 仔犬たちはひっきりなしに鳴きながら、母親のクロにそっくりのつるんとした頭をやたらにふり立て、上になり下になり、右へ行ったり、左へ行ったりしている。🐶


 そんな騒ぎを先住犬のダンや、先住猫のチビが遠巻きに見守っている。

 とそのとき、ドアのかげから、めぐみと広司がそっと顔をのぞかせた。


 目ざとくふたりを見つけたクロは、横になったままの姿勢でユラユラ尻尾をふり、じぶんのお腹のあたりでうごめいている6匹の仔犬たちを誇らしげに見せてくれる。

 

 ――ほら、見てください。

   わたしの子どもたち。

   カワ(・∀・)イイでしょ?

 

「まあ、クロ。赤ちゃんを見せてくれるの? お産したばかりの犬は気が立っていて人を寄せ付けないって聞いたけど、クロは、おおらかなのね。ありがとうね、クロ」


 手のひらにおさまるほどの赤ん坊を、ふたりはおそるおそる抱き上げた。

 まだ自由に動けないクロは、安心しきって家族の睦み合いを眺めている。

 

      *

 

 ハッピーの忘れ形見の仔犬たちは、日増しに大きく愛らしく育っていった。

 1か月もすると、丸山家はクロ母子に占領されかねない状態になってきた。

 さすがに動物好きな一家も、仔犬たちの引き取り手を探す必要に迫られた。


 家族全員でそれぞれの知り合いに当たった結果、一郎の会社の同僚、美知子のPTAの仲間、めぐみの同級生、広司の友だち、近所の中年夫婦の計5軒が見つかった。


 父親のハッピーに似た1匹は、母親のクロとともに丸山家に残ることになった。

 

      *

 

 ジローと名づけられた仔犬は愛らしく太り、たちまち丸山家のアイドルになった。

 めぐみも広司も、ひまさえあればジローを抱き上げて頬ずりをしているし、先住のダンとチビの世話係は美知子だったので、クロは一郎の担当ということになった。


 あれほどひどい目にあわされながら、いまだに人間を信じて疑わないクロ。

 自分に任された一郎はその純真な心根がいじらしく、不憫でならなかった。

 

 ――この子は自分が守る。(´ω`*)

 

 そう決めた一郎とクロは、いつも一緒だった。

 食事もお風呂も、寝るのも、なにもかも……。


 クロを膝に乗せてテレビを観るひとときが、一郎のもっとも楽しい時間になった。

 一郎の膝で安心してまどろんでいても、クロはハッピーとの悲しい別れを思い出すのか、引きつるように脚をピクピクさせたり、ヒーッ! 細い悲鳴をあげたりした。


「また怖い夢を見たんだね。大丈夫だよ、いまはおとうさんがついているからね」

 やさしく言い聞かせてやると、クロはようやく眠りの世界にもどって行ける……。


 温かくて大きな一郎の手は、クロのお腹といわず背中といわず、頭のてっぺんから足の先まで、さらには口や耳のなかに至るまで、身体中をくまなく撫でさすった。


 まるで、クロの心の傷まで治してやろうとするかのように……。(ノД`)・゜・。





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