第4話 夕暮れとスタートライン
やや急ぎ足で展廊館を出て正門にむかう。それがちょうど夕暮れと重なり少し暗くなりつつも陽光が魔工学院の本校舎やその周りの建物の壁を濃淡あるオレンジに美しく染め上げていた。正門に着くと胸に花と歯車が重なった金色の刺繍が施された濃藍色のロングコートを着た男が二人、門の両脇で待っていた。
おそらく学院の警備に当たっている守衛の人だろう。
僕はロイナと一緒に門をくぐる直前で足を止め、後ろを今一度振り返った。
本来自分の瞳が輝いているか否かなんて人から言ってもらわないとわかりはしない。
しかし今は断言できる。展廊館で導かれるように手に取り虜となった「手記」、そこから芽生えたいくつもの疑問と興奮。それらによって僕の目は今この瞬間とても輝いているに違いない。またそれとは反対に、心では「得体のしれない何か」に触れ、見てしまったことでの怖さを感じ震えている側面も少なからずある。
しかしこの二つの思いが、気持ちが自分の体の中や脳裏でせめぎ合っている瞬間こそ最高に楽しい時だと僕は思う。
そうやって足を止め、ある種の高揚感に浸る僕。
そんな僕を見かね「リヴィ君、帰るよー早く行こう」と、ロイナが声をかけてくる。
僕は、この国一の魔工の学び舎であるここ「魔工学院」に対する憧れと入学の決意を新たに門を出た。
帰りも来た時と同じように馬車に乗りこむ、疲れ気味の足を進め席に座って揺られながらルイルジェントへの帰路についた。馬車が動き始めて数分、ロイナはすっかり寝てしまって、僕も途端に疲労を感じはじめ睡魔の足音も近づいてきた。
睡魔に負けじと、服のポケットに入れていたメモ帳を取り出しペンを走らせ、今日の中であった出来事やそれに対する心情などを簡単にではあるが記した。またそのメモをポケットにしまい込み少しの間寝ることとした。
しばらくしてガタガタと席の揺れが次第に大きくなっていく。
薄く瞼を上げ姿勢を起こすとルイルジェント市街が見えてきた。
少しして馬車は町に着き僕とロイナは降りた。辺りはすっかり明かりが灯り、露店の周りや家の壁も薄っすら照らされ夜の風情が程よく感じられる頃合い。
時間も遅いことから、ロイナを家の近くまで送っていた最中で今日はあんなことがあった、こんなことがあったとお互い近況話も交え話しつつ歩いてく。
「今日はありがとう、結構楽しかったよ」と一言言って彼女は帰っていた。
次の瞬間、僕はまた急ぎ足で息を切らしながら家に駆けていった。家の明かりが視界に入り、門を通り玄関の前に着いたところで深呼吸。扉を開け中に入り父様の部屋に急いだものの、中は明かりが消えていた。
部屋の中を探り廊下へ出る。すると奥からいい匂いがしてきた。僕はその香りの導きのままに進み、扉を開けると父様と母様が食卓を前に座っていた。
「お帰り、リヴィ」「おー、帰ったかご苦労だったリヴィ」と労いを受け僕も座る。
食べている中で父様が「どうだい、何か発見や目立った成果は出たかい」と僕に聞く、僕はあの手帳のことを心に忍ばせそれ以外を話した。
そう、この日・これこそが僕の中で最初で最大の大切な思い出「メモリア」だった。
【魔工と探求(前日譚)】リヴィの思い出(メモリア) 御崎 黒磨 @misaki-kuroma
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