物語は夫が刺殺された時、傍にいた陽菜子の視点で綴られます。
思う所の多い仲であった夫が、突如いなくなった困惑。目撃者、容疑者と扱われてゆく騒がしさ。時に思い出に浸り、全く別の事を考え、今の状況と似つかわしくない言動をする。
それが、妙な現実感。何か事件が起こったとしても、現実を生きていくという事をひしひしと感じさせます。
そして、思いや考えを多分に含んでいる、彼女の視点で物語が進んでゆくからこそ、写実のように鮮やかな、でも決して実写では語れない、彼女の心理、彼女の心のフィルターを通してみた世界を体感するようでした。
決して先の読めない、常に緊張をはらんだ展開。揺蕩うような薄闇の世界の中で、彼女が辿り着く真実とは―――。
結末に、驚かさせること、間違いありません。
ついさっきまで隣で歩いていたはずの夫が、何者かにナイフで殺害される。
犯人は誰なのか。
警察は妻である自分を疑っているようだが……。
主人公・陽菜子の視点で展開する本作。
ミステリー、事件、となりますと、犯人は誰だろう、真相は? と予想しながら読んでいく方も多いと思うのですが、このお話はなかなかに大人な作品です。
主人公をめぐる複雑な環境、切々と、一方で他人事のように吐露する心理、彼女は孤独なのか、あえて孤独になろうとしているのか……。救いのヒーローも用意してあるのですが、どこか鬱々とした雰囲気が抜けません。混沌ともいいましょうか、配置してある要素は明るいはずなのに、主人公だけはずっと暗いままなのです。
読みやすく、しっかりとした世界観のある作品なので、一気読みもおすすめです。