第8話

 「ご臨終です」

 医者は鎮痛な面持ちで、家族に告げた。

 妻と、娘はなくなった患者にすがりつくように泣いていた。

 原発性肝がんが彼の病名だった。抗がん剤治療は、一時効果は上げていた。手術で、がんは肝臓から完全に取り除けたはずだったが、すぐに再発してしまった。

再発後は、肺にも大腸にも転移し、最後は腹水がたまり、手の施しようがなかった。

 患者はまだ若く、それががんの進行が早い要因だったのだろうと、医者は考えていたが、それを除いても、しぶといがんだったのは間違いない。

「最善をつくしましたが、残念です」

「抗がん剤は一定の効果をあげ、がんが小さくなったのは確認できたので、手術にふみきったのですが……」

 医師は、残った遺族に言葉を選びつつ、説明する。

「いえ、先生はよくやってくださいました」

 患者の妻は、泣きはらした目でそういった。

「がんはとりのぞいたのに、またできるの?」

 幼い娘も、涙混じりにそういった。

「がんは一説には、がん幹細胞っていうのがいて、それを倒さないと、再発するって説はあるんだ。私の力が足らなかった。ごめんね」

 医師はなくなった患者の娘に頭をさげる。

「がん幹細胞はにげちゃったの?」

「そうかもしれない。幹細胞は、色々なところを行き来して、がんをふやすんだ。とらえられないくらい小さいんだよ」

 実際、患者の転移速度は速かった。本当に幹細胞が臓器を回って、癌を増やしていたのかもしれない。

「お父さんが、このがんを研究対象にしてほしいといわれていてね。お父さんは他にも、がんで苦しんでいる人たちの力になるんだよ」

 ヒーラー細胞とういのがある。ある子宮がん患者のがん細胞だが、今も生き続けて、がんの研究に役立っている。

 ancer(がん)は人体を離れても、永遠に生きることができるのだから。



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