第三界 俺と売女とロリとゴム
「啓介!帰りにモール寄ってかない?」
一日の全過程が終了し、俺達はいつものように帰路に着く。
「うん、行こっか」
俺は廊下で待ってくれている佳奈美に向かって走った。
「あ、すいません」
途中誰かに肩をぶつけたものの、俺はもう周りなど見ている暇がなかった。
昨日、俺の中の世界がガラッと変わり、現実は俺を全力で甘やかしてくれている。
今日も俺は佳奈美とデートである。
この喜びに一日二日で慣れろというのは無理な話で、俺はいまだに頬の緩みが収まらない。
だから最近はこいつといるときはなるべく舌を噛むようにしている。そうすれば痛みのおがけで頬がたるみ切ることはない。
そのかわり大好きなサイダーをのめないのは少し難点だが。
「ねえねえ、啓介。今週末空いてる?」
隣から聞こえる朗らかな声。
この声かけに緊張したのか、佳奈美は発言前、ただ握った手が少し鼓動を打ったのがわかる。それほどまでに勇気を出してくれたのだろう。
俺も振り向くが、彼女の、佳奈美の顔はとてもじゃないほどに赤いのがわかる。
いや、茜色と言っておこう。きっと、夕日のせいだから。
「うん、暇だけど」
「じゃあさ、ウチ、来ない?」
俺は、確信した。
これは夕日のせいじゃない。きっと、もっと神秘的な何かだ。
「え?ええ……、う、うん、いいよ」
明らかな動揺。
客観的に見るととてもじゃない程に滑稽で、童貞臭い。本当に、救いようがない。
「そ、そう……?」
そういって佳奈美も言葉に詰まる。
案外そういうことに積極的なのかとも思ったが、そうでもないらしい。
俺がいうのもなんだがとてもその表情は幼げで、とてもかわいらしかった。普段感じる可愛さではなく、なんかこう、赤子のような、そんな感覚だった。
それから、俺達は一言も喋らなかった。
太陽は照らした、俺とこいつの結ばれた手を。
その指はもう、絡まっていた。
その晩、俺はどうも寝付けなかった。
いや、正直言って全身がガクガク震え、アドレナリンの過剰分泌でまともな思考すらできない。
ただただに幸福だった。
「明日の夜は、ついに……」
男子高校生の妄想を散々に働かせながら俺は一人ベッドで布団にくるまり悶える。
傍から見ればかなり気持ちの悪い光景なのはわかっているが、そうせざるを得ない。
アドレナリンが、出すぎているからだ。
「そうだ……」
俺は、ふとベッドの傍らで充電しているスマホを手に取り、インターネットを起動。
そして
「初めてのセックス 方法」
で検索。該当する記事は意外と多くて、例えば
「童貞卒業まじかの人必見!女性の私が童貞にしてほしいこと8選」
「これで君も一流テクニシャン。男が初めての夜で囁くべき言葉」
「避妊絶対!童貞が忘れがちな避妊必需品」
などなどを片っ端から漁る。
そしてこういう時、全てを完璧に準備しておきたいのが男心というモノ。
俺はその変なプライドに負けてベッドを抜け出し、夜の街へと繰り出した。
寝間着であることを隠すために黒いパーカーをかぶり、俺は目的の場所へと足を進める。
ネオンの光というモノはどうにも男のそういう心をくすぐりがちなようで、俺のは拍動はいつになく昂っていた。
しかし、すごい世界だ。
通りの端には大量のお姉さんたちが立っており、片っ端から通りすがりの男性たちに声をかけている。
全員が全員肌の露出が多く、何よりも大きい。いや、それを誇張した服装というべきか。
当然、全ての男性がついていくわけがなく、そっけなく返す人もいれば、にやけ面で店内に吸い込まれていく人もいる。
「坊やぁ、こンな時間にぃ外で歩くなんてっ、悪い子だぁ」
ふと、俺は腕をがっしりと掴まれ、そのまま腕が何かに埋もれていく感覚を味わう。
言うまでもない、谷間である。
アニメでしか普段目にすることがない女性の谷間。それがこの街ではもはやありふれたものとして扱われている。
「あ、えっと……すいません!」
「ああ、そう……」
そう俺は言い放ち、彼女の腕を振りほどいてその場をそそくさと去った。
「あの子……濡れちゃいそ」
そう、売女はほくそ笑むのだった。
とある自販機前。俺はその光を一身に受けていた。
昔はピカピカだったのだろう白を基調としたボディに赤のストライプの入った自販機。
中に売られているのは男子が一度は漫画で目にしたことのある代物である。しかし、彼らは実物を見ることは少ないのではないだろうか。
赤々としたパッケージに0,01の白文字。
コンドームである。
やはり、避妊は大切だと保険でしこたま習ったからな。(保険のそのタイプの授業だけ起きれる不思議)
「適当にこれでいいのか?」
俺はその赤いパッケージを俺は選択し、帰路に就こうとすると……。
「すいませんっ」
俺は腰のあたりに何かがぶつかる感触を覚える。
華奢な体。目の前にいるのはまだ幼い子供だ。見た目だけで判断するならまだ10から12くらい。小学校高学年だな。
「お嬢ちゃん、こんな時間に何を買いに来たのかな?ジュースなら向こうだよ」
きっとジュースと間違えているんだ。
この時間にこんな子供が生きているのは確かに大問題だが、まあ様々な家庭があるんだろう。
「ねえお兄ちゃん、この赤いの押してえ」
少女は俺の買ったものと同じ赤いコンドームを指さす。どうやら、身長が足りないらしい。当たり前である。もとよりこの商品はこんな子供用に開発されていない。業者もこんな子供が飼うことは全くの予想外だ。
「おいおい、だからこれジュースじゃないんだぞ?」
「しってるよ、おちんちんにハメるやつでしょ?」
俺はその顔にとてもじゃない怨念が見て取れた。
昔、子供の幽霊が出てくるホラー映画があったな。俺は結局怖くてCMしか見れなかったが。
「はい、これお金」
そういって握りしめてきたのだろう700円が俺に手渡される。
その瞬間、抑えていた俺の恐怖心は限界を迎えた。
「う、うあああああああああああああああああああああああ!」
俺は思わずその場から走り出していた。
何の冗談だ、これ。なんだアイツ!怖い!怖すぎる。霊か?霊なのか?
そのまま俺は飛ぶように家に帰り、布団を全身すっぽりと包んで眠ろうとした。
足は出さない。引きずり込まれるかもと思ったからだ。
結局その晩は、一睡もできなかった。
パラレルリセット 鷗一一一 @KAMOME111
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