後編

 と言うわけで、七不思議をプロデュースする事になっちゃった。やると決めた以上は、一人一人をちゃんと怖くしていかなきゃね。

 さあ、まず最初は。



①職員室に飾られている歴代校長先生の写真から初代校長先生が抜け出して、夜の校舎の中を歩き回る。


 これは音楽室でも理科室でもない、場所かぶりの無い唯一の怪談。だから一見、手直しなんてしなくてもいいように思える。だがしかし!


「校長先生。言っちゃ悪いけどアナタ、写真から抜け出す瞬間を見てなかったら、怖くもなんともないから。今のアナタは、ただのハゲたオッサンだから」

「ええっ⁉」

「だってそうじゃない! アタシは七不思議を知ってたから校長先生なんだって分かったけど、知らない人が校長だって言われても、頭のおかしなオッサンって思われて終わりだよ。怖くないよ」

「よ、夜な夜な校舎を歩き回るオッサンがいたら、それはそれで怖いじゃないですか」

「それは霊的な怖さじゃないでしょうが。写真から抜け出した後のアナタは全然怪異っぽくない、ただのオッサンなの!」

「そ、そんな……」


 ガックリと膝をつく校長。そんな彼をろくろ首やガイコツ、バッハがオロオロしながら慰める。


「大丈夫、校長先生はちゃんと怖いですって」

「アナタは我々七不思議の代表なのですから、もっと自信を持って下さい」

「よ、日本一!」


 うーん、だけどどうしたものか。やっぱりただ徘徊するだけってのがネックね。もっと怖い要素を出さないと……そうだ!


「ねえ校長。アンタ頭から血を流しなさいよ。で、姿を見た生徒を追いかけて、捕まった相手は頭をかち割られるってのはどう?」

「えーっ、頭から血を流さなきゃいけないんですかー? それに私は、ニセモノとは言え仮にも校長ですよ。生徒に危害を加えるというのはちょっと……」

「別に本当にケガをしなくても、血のりでも塗ればいいのよ。それに生徒の頭だって割る必要はないわ。捕まるギリギリのところで逃がしてやりなさい」


 アタシだって、けが人や死人を出すのは本意ではないわ。いくら怖い怪談を望んでいるからと言って、さすがに殺しちゃうのはちょっとね。


「実際は捕まらなくても、血を流したオッサンに追いかけられるんだもの。きっとトラウマものの怖さよ。頭割られるって噂はアタシが流すから、校長は怖い顔して生徒を追いかければいいの」

「でもそれって、私がやってもいない頭かち割り事件の犯人にされるって事じゃないですか? それに走って追いかけようにも、足腰が弱っるから無理ですよ」

「シャラップ! だったら今日から走り込みでもして鍛えなさい! い・い・わ・ね!」

「は、はいぃぃぃっ!」


 ふう、これで校長先生は何とかなりそうね。さて次は。



②音楽室で昔亡くなったコーラス部の女子生徒が歌を歌っている。


 体が透けた、暗い顔をした女子生徒の幽霊。彼女をどうプロデュースするかと言うと。


「アンタはとりあえず、活動場所を屋上にでも移しなさい」

「え、音楽室を離れちゃうんですか?」

「当たり前でしょ。そもそも、七不思議の場所がかぶりすぎなのよ。ろくろ首にガイコツ、アンタ達も場所移動してもらうから、いいね」

「「ええーっ⁉」」


 揃いも揃って不満そうだけど、これをどうにかしなくてどうする!

 けど、これだけじゃまだ心配ね。


「ねえ幽霊。アンタ普段、どんなの歌ってるの?」

「よくぞ聞いてくれました。『手のひらは太陽に』です!」

「却下!」


 おいこらテメェ、ふざけてんのか! 「僕らはみんな生きている~」って、アンタ死んでるでしょ!

 ああ、もう。どうしてうちの七不思議達はこう真剣な顔して、ツッコミ待ちのボケをかましてくるかな⁉


「お、『おばけなんてないさ』の方が良かったかな?」

「あ・ん・た・ねぇーっ! そうだ、歌うんだったら蓬菜秦三さん作詞、南安雄さん作曲の合唱組曲、『チコタン』にしなさいよ」

「え、『チコタン』って言ったら後半の歌詞がトラウマレベルで怖いって言われている、あの『チコタン』ですか⁉」


 そう。知らない人は、Youtubeで探すと良いわ。

 初めの方は可愛らしい歌詞なのに、途中からだんだんと恐くなっていくのよね。特に最後の方はもう狂気を感じるレベル。

 最初聞いた時は、アタシもゾクゾクしたわ。


「あたし、あんなの歌える自信が……」

「イイワネ?」

「は、はい」


 とまあこんな感じで、アタシは次々と七不思議をプロデュースしていった。

 怪異の場所をバラけさえる事はもちろん。夜にしか起きないとされていた怪異には昼間でも活動するよう、時間帯の変更もさせたわね。だって夜中にバアってやったって、誰も見てくれないんだもの。


 怪異は基本夜型。昼間は眠くて活動できないなんて声もあったけど、甘ったれるな! 

 人間で夜働いてる人だっているんだ。本気で生徒を怖がらせようって気があるなら、根性見せんかい!


 と言うわけで、改変した七不思議の残りのラインナップがこちら。



③理科室のガイコツが踊る。

   ↓

 ガイコツには理科室を離れて、近くにあるトイレの鏡に映り込んでもらうことにしたわ。休み時間にコッソリ理科室を抜け出して、洗面台で手を洗っている生徒の背後に立ってもらうの。

 顔を上げた時にガイコツが鏡に映ってたら、きっと怖いわよ。


④深夜音楽室にあるバッハの肖像画の目が光る。

⑤真夜中の音楽室でピアノがひとりでに鳴る。

   ↓

 この二つはピアノの演奏に合わせてバッハに指揮を取ってもらうことにしたの。

 やっぱり音楽室に七不思議が二つもあるのは変だから、二つまとめて一つの不思議って事にするわ。

 あと夜だけじゃなくて、昼間も活動する事。


⑥夜になると理科室の人体模型が動く。

   ↓

 先述の通りガイコツがトイレに行っちゃったから、彼はそのままでも問題無いわね。大きな違いと言えば、やっぱり昼間も動いてもらうくらい。

 人体模型は、親友のガイコツと会う時間が減っちゃうって寂しそうだったけど、これも立派な七不思議になる為に必要な事。我慢よ我慢。



 ⑦音楽室にろくろ首が出る。

 彼女をどうするかには一番頭を抱えたけど、考えた結果中庭に出てもらうことにしたわ。

 うちの学校は昔墓場だったから、成仏できない人の霊がろくろ首になって化けて出たって設定でね。

 本当は墓場とは何の関係もないのだけど、無理やり話を繋げりゃいいのよ。



 かくして七不思議の改革は完了した。

 バッハとピアノを一つにまとめちゃったから、不思議の数は六つになってしまったけど、七不思議は全部知ったら不幸になるから、七つ目の秘密のベールに包まれてるって事で誤魔化すことにしたわ。


 全部終わった頃にはもうすっかり夜も明けていて、生徒が登校し始めている。


「さあ、それぞれやる事が決まったわけだし。みんなには早速今日から活動してもらうから」

「え、今日からですか? けど、みんな会議で疲れていますし。明日からと言うわけにはいきませんか?」

「はぁ? 何甘ったれたこと言ってんの? 今日からと言ったら今日から! つべこべ言わずに働いて、学校を恐怖のどん底に叩き落としてこーい!」

「ひぃ~、分かりました~!」


 校長先生は涙目になって、人体模型とガイコツは抱き合いながら、「「あの人間怖いーっ!」」って震えていた。

 失礼ねえ、可憐な乙女に向かって何て言い草だ。


 けどさすがアタシ。プロデュースして、改変した七不思議の噂を流した甲斐があって、それから一カ月も経った頃には、学校で七不思議を知らない者はいなくなった。


「ねえ、昨日二組の東さんがトイレで手を洗ってたら、鏡にガイコツが映ったんだって。怖い~!」

「放課後音楽室に行ったらピアノがひとりでに鳴ってて、バッハの絵が動いて指揮を執ってたの」

「俺なんて血まみれの校長に追いかけられたぞ。やっとのことで中庭に逃げたと思ったら、前からろくろ首が現れて。怖くて気絶したんだ」


 わっはっは、愉快愉快。

 怪異達め、頑張っているじゃないか。もう生徒はすっかり七不思議を恐れ、うちの学校は今、空前のオカルトブームになっている。

 結構結構、褒めてつかわす。


 大成功したことに満足しながら笑っていると、友達の一人がこんな話をしてきた。


「ねえ、鹿嶋さん。七番目の不思議って知ってる? 何でも七不思議の怪異を牛耳っている影の支配者、世にも恐ろしいスケ番がいるって話よ」


 おや、それは初耳だ。不思議の数が六つに減っちゃったから、誰か新しい怪異でも雇ったのかな?

 七不思議を牛耳る、世にも恐ろしいスケ番か。聞き慣れない怪談だけど、どんな子だろう?


 ふふふ、今度みんなに聞いてみよっと。



            おしまい👻

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七不思議プロデュース大作戦 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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