七不思議プロデュース大作戦
無月弟(無月蒼)
前編
夜明け前の音楽室。
息を殺して入り口のドアからこっそり中を覗くと、そこにはうちの高校に伝わる、七不思議の怪異達が勢ぞろいしていた。
体の透けた幽霊と思われる女子生徒やガイコツなど、七不思議がアタシの目の前にいる。
凄い、噂は本当だったんだ。
今日は四月四日。時刻は午前四時四十四分。
こんな夜も明けないうちにアタシが音楽室を訪れた理由は他でもない。年に一度今日この時間、七不思議の怪異達が音楽室に集まって会議をするという言い伝えを聞いて、その真相を確かめに来たのだ。
会議の場所が、どうして音楽室かって? その理由は、七不思議のラインナップにある。
うちの学校に伝わる七不思議。その詳細はこうだ。
①職員室に飾られている歴代校長先生の写真から初代校長先生が抜け出して、夜の校舎の中を歩き回る。
②音楽室で昔亡くなったコーラス部の女子生徒が歌を歌っている。
③理科室のガイコツが踊る。
④深夜音楽室にあるバッハの肖像画の目が光る。
⑤音楽室で真夜中、ピアノがひとりでに鳴る。
⑥夜になると理科室の人体模型が動く。
⑦音楽室にろくろ首が出る。
……………お分かりいただけただろうか。
「ふざけんなあっ! 怪談が音楽室に集中しすぎでしょうがーっ!」
ツッコミたい気持ちを我慢できなくなったアタシは音楽室のドアを勢いよく開け。すると中にいた七不思議の怪異達は、ギョッとした様子でこっちを見た。
「な、な、な、何ですかアナタは⁉」
「どうしてこんな時間に生徒が? まだ朝の五時前ですよ」
「あーっ、大変だーっ! 人体模型さんがビックリしたショックで、心臓止まっちゃったよー!」
「しっかりしろ人体模型! 今心臓マッサージしてやるからな!」
白目をむいて横たわる人体模型に、ガイコツが心臓マッサージを施し始めた。
人体模型とガイコツ。この二人はいずれも理科室に伝わる七不思議なのだけど、今日は会議のために音楽室に出張してきてるみたい。
それにしてもコイツら、急に入ってきただけの人間にビックリしたり心臓発作を起こしたりするなんて、それでもオバケか!
ああ、何だか頭が痛くなってきた。
せっかく憧れの心霊体験ができるってワクワクしてたのに、全然怖くないんだもの。情けなくて涙が出るわ。
あ、そろそろアタシの自己紹介をしておくわね。
アタシの名前は鹿嶋麗子。三度の飯よりオカルトが好きで、友達からはよくクレイジーって言われている、どこにでもいる普通の高校二年生の女の子よ。
そんなアタシは常々心霊体験をしたいって思ってたんだけど。七不思議の怪異達が会議をするという言い伝えを聞いて、こうして真相を確かめに来たのだ。
こんな朝早くだと学校は閉まってて、忍び込んだらセコムの防犯セキュリティが作動するんじゃないかって疑問に思ったそこのアナタ。
ご安心を。こんなこともあろうかと、かねてより勉強していたハッキング技術を使い、セキュリティは解除しておいたから。
七不思議に会いたいと言うアタシのピュアな思いは、セコムごときじゃ止められないのだ!
だけど、だけどだよ。せっかくやって来たって言うのに、うちの七不思議どもときたら、今一つ怖くないんだもん。
これじゃあ期待外れもいいとこだよ。
心臓マッサージをされた人体模型が息を吹き返し、バンザイバンザイと喜ぶ七不思議達を見ていると、頭を抱えたくなる。
ちなみにひとりでに鳴るピアノもポロンポロンと音を鳴らして、人体模型が助かったことを喜んでいるみたい。
喋る事もバンザイをすることもできないけど、音で喜びを表現するその姿は、何だか可愛い……って、可愛くちゃダメなの! だって七不思議だよ。怖くてなんぼじゃない!
「あ~、アンタ達。喜んでるところ悪いけど、ちょっと良いかな?」
「ハッ! そうです。私達も聞かなきゃいけない事があったんです。いったいアナタは誰なんですか?」
そう聞いてきたのは、ツルツルとした頭をしたおじさん。いや、アンタこそ誰よ?
「アタシは鹿嶋麗子。この学校に通う生徒よ。で、おじさんは?」
「私はこの学校の初代校長です。と言っても本人ではなく、彼の写真に宿った魂なのですけどね。学校の七不思議の、代表をしております」
「ああ、七不思議の一番目のやつね。へえー、アンタが代表なんだ。それじゃあ一言言わせてもらうけどさ。……七不思議なら少しは怖いとこ見せろコラァッ! お前ら全然怖くねーんだよ!」
「「「ひぃっ⁉」」」
実は今、生徒の誰も七不思議を怖がらないと言う由々しき事態が起きている。
あたしはオカルトマニアだから、よく友達に七不思議の話をふるのだけど、みんな全然怖がってくれないの。
「七つの不思議のうち四つが音楽室、二つが理科室とか、マジ草」なんて言われる始末。
オーケー、それはアタシも思ってたよ。だけど伝わっている七不思議が、必ずしも真実とは限らない。
もしかしたら何かの間違いで、本当の七不思議はもっとまともなんじゃないかって期待して、この七不思議会議に忍び込んだって言うのに、噂の通りなんだもの!
特にろくろ首! アンタは音楽室とは縁もゆかりも無いでしょうが!
ドアからコッソリ中を覗いた時、赤い着物を着た首の長い女性を見た時の絶望感が分かる?
そりゃあろくろ首単体で見たら怖いかもしれないけどさ。音楽室に出るってなったら怖いより先に「何でだよ⁉」って思っちゃうでしょう!
うちの学校の七不思議は雑! 場所かぶりと言い、出てくる怪異の種類と言い、何かと雑なんだよ!
アタシは集まっていた怪異達に、その事を言ってやった。
そしたらみんな、急にしょんぼりしちゃって。ひとりでに鳴るピアノも悲しそうに、ポロンポロンとレクイエムを演奏し始めた。
そして七不思議の代表だと言う校長が、泣きそうな顔で言う。
「そう、それなのですよ。実は今日の会議の議題は、全く怖がられなくなった七不思議を、どうやって怖くしていくかなんです。私達は怖がられてなんぼの怪異なのに、笑われる始末。このままではいかんのです」
「なんだ、分かってるじゃないの。けどそれならまずは、メンバーを変えた方が良くない? 音楽室と理科室に集中しすぎているもの。いらない怪異をクビにして、新しいメンバーを入れるとか」
すると途端に、七不思議達が悲痛な叫びをあげる。
「そんな、クビだけは勘弁してください。あたしは歌うことに青春を捧げてきたんです。死んじゃったけど、まだまだ歌っていたいんです」
そう言ったのは②番目の不思議、コーラス部の幽霊。そう言われると、クビにするのは可哀想かも。
「僕とガイコツくんは、どんな時でも二人で頑張ってきました。これからも一緒に生徒を脅かしていきたいんです」
「オラも粉骨砕身の気持ちで頑張るから、クビだけはご勘弁を」
美しい友情を見せるのは、理科室の人体模型とガイコツ。つーかガイコツ、アンタが粉骨砕身したらダメでしょう。ツッコミ待ちなの?
「つくづくロクなのいないわねえ。うちの学校って、昔は墓場だったって言うのに、もうちょっとマシな怪異はいなかったの?」
「ほう、若いのによくご存じですねえ」
「そりゃあね。中学の頃進路に迷ってる時、墓場の上に建てられた学校なら怖い怪談があるかもって思って、そういう高校が無いか調べまくったの」
「……アナタは何を基準に進路を決めているのですか?」
呆れ顔の校長先生。
けどそうして選んだ学校なのに、七不思議がこの体たらくだもの。進路ミスったわ。
「ちなみに墓に埋葬されていたお骨は全部無事別の場所に移されて、お坊さんがお祓いもしてくれたので、それ関係の怪異が起きる事はありません」
「なんつー余計な事をしてくれたの!」
「仕方ないじゃないですか。まあそんなわけで、今は私達で七不思議をしているわけなんですけど。どうやらアナタは、相当なオカルトマニアのようですね。お願いです。どうか私達が怖くなるよう、プロデュースしてください!」
「え、アタシが⁉」
「お願いでございます! 七不思議のプライドにかけて、どうしても生徒達から恐れられたいのです。どうか……どうかこの通り!」
頭を地面にこすりつけて懇願する校長。その姿は全然怖くないんだけど、まあこのふざけた七不思議が怖くなるのは、アタシにとっても得ね。
やっぱり、自分の学校の七不思議だもの。ちゃんと怖い方がいいじゃん。
よーし、オカルトマニア鹿嶋麗子。七不思議をプロデュースしちゃうよ!
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