EXTRA HIGH

ほんとうの、はじめまして


 シルヴィ・バレトは、第七執務室の前に立っていた。

 つい今朝方、上司であるボッチ・タイダラ警壱級から連絡を受けて、この時間に執務室に向かえと言われていた。もともと、次のパートナーはすぐに用意するという話だったが、思ったよりもはやくて、シルヴィは意外に思っていた。

 あれからしばらく経った今でも、パートナーという言葉を思い浮かべると、シルヴィは妙な気分になる。思い出すと、胸中を指でなぞられるような、変なくすぐったさを覚える人物が想起されるからだった。

 現実的な話、彼以上に最良のパートナーは存在しないとシルヴィにはわかっていた。インジェクターを必要とせずにあれだけ戦える人物が、そうそういるはずもなかった。なにより、パートナーとしてともに行動して、うまく事が運んだ時の高揚感も、きっとあれが最初で最後だったのだろう、と思っていた。

 とはいえ、シルヴィは前向きである。なんとなく、次のパートナーとはうまくいくような気がしていた。

 緊張に高鳴る胸を押さえる。友好の証としてマスクをはずすと、意をけっして、シルヴィは扉を開けた。


 広い室内に、ひとりの少女が立っていた。

 少女が振り向いたとき、肩ほどまでの艶がかった黒髪が揺れた。

 大窓から差し込む陽光に、その陶器のような白い肌が煌めく。

 服装は、あまり外見に頓着のない様子の黒いボディスーツで、帯刀する長大なカタナが、小柄な身体にはアンバランスだった。

 その腕には、黒犬のマスクが抱えられていた。

 空いているほうの手で、相手は握手を求めてきた。


「本日付けで配属になった、シン・チウミ警伍級だ。よろしく頼む」


 少女が口を開くと、高い声が室内に響いた。

 シルヴィは、その顔をじっと見つめていた。そうするうちに、どういうわけかぽろぽろと涙が零れてきて、隠すために俯いた。

 その姿に、美しい赤眼を持つ少女は、困ったような笑みを浮かべた。


「どうして泣く? 俺は、お前の笑っているときの顔のほうが好きなんだけど」

「もう。あなたが、そうさせたんでしょ!」


 上擦った声でそう返して、シルヴィは泣きながら笑うような、不思議な表情を浮かべた。




(完)

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