まいとゆかがただイチャイチャしてるだけ
師走も近い今日この頃、皆さん如何お過ごしでしょうか。
まいです。今、大学生で女の子が好きです。私自身は女ですが、女の子の心が好きで、女の子の身体が好きです。
最近熱烈にアプローチしているのはゆかさんという年上の女性です。某企業で総務のOLさんなのですが、数か月前に橋の下で出会ってから仲良くさせていただいてます。
ぶっちゃけ好きです、大好きです、ついでにいうと性的に好きです。歌がへたっぴな私の歌を認めてくださっているだけで、もう好きです。天使のような慈愛に満ちていて、おっぱいの大きさが包容力を現していると言っても過言ではありません。
しかし、紳士淑女の皆さま焦ってはいけません。
私のような恋愛観を持つものはそもそもアプローチを始める前に『相手が受け入れてくれるか否か』というのをまず見極めなければいけません。
何故なら、人は自分の常識から外れたものを恐れるものです。
隣に座っている人が、いきなり習慣だからといってヘッドホンで投げ縄始めたらびびるでしょう? それと同じです。
まず、この手の特徴を持つ場合その行動に対して、相手が理解を示してくれるのかというところから始めないといけません。すなわちヘッドホン投げ縄を見て引かない人かどうかを見極めるのです。そして引かない人であった時に初めてアプローチが可能となる。すなわちヘッドホン投げ縄で捕まえることができるようになるわけです。
自分で言ってて、何の話してるのかわかんなくなってきたな……。
ともあれ、私はゆかさんが『受け入れてくれる人か否か』を見極めないといけないのです。告白して『女が好き? ないわー』とか言われた日にはそのまま涙を隠すために極寒の鴨川に私の身体が浮かぶことになる。
いや、だってもし仮にゆかさんがそういうのNGな人でも傍にいたいのだ。
なんならゆかさんがそのまま幸せな家庭を築くのを心から応援するぞう。人生ごと貢ぐ覚悟もなくもないぞ。
とまあ、そのためにこの半年探り探りで情報をあつめていたので、まずはその情報の整理から始めてみよっか。
まず、彼氏なし、というか交際経験なし。友人は一定数いるけど、大学出てからは疎遠になっている。趣味は読書と日記。好みのタイプは優しい人(まあ、首を傾げながらの答えでしたが)。ハグOK、手つなぎOK、ひざまくらOK。
……あれ、いけるくない? 脈、あるのでは?
ある日の朝、自室のベッドからがばっと起きた私はずばりそういう天啓を得た。
なんなら、夢で神様に『今日はイチャイチャしてもええんやで』とにっこり笑いかけられた気さえする。気のせいですか、そうですか。でもこの際、気のせいでもなんでもいいのです。
今日はおデートもとい、ゆかさんとの買い物に出かける貴重な土曜日。
ちょっと一歩踏み込んだ進展も期待しちゃってもいいのかもしれない!
私は素早いスピードでぎりぎり小綺麗な服たちを集めるとコートを着込んで、すっかり冬になった街に飛び出した。
言っている間にクリスマスも近いので、予定を立てないといけないからね。
軽く鼻歌を歌いながら、私は意気揚々と白む息を肩で切りながら冬の街を歩きだす。
雲が陽を隠して、流れる風も頬をいじめるそんなころ。
コートの中で温まった私の胸はぽかぽかと、ゆかさんの所まで急げや急げと脚を急かしていくんだ。
さあ行きましょう、寒空の下。逸る心と高鳴る想いを抱きながら。
女の子が好きかもわからないあなたの元へ。
※
「ゆかさん、あのどうしてお怒りなのでしょうか……?」
「まいが!! マフラーも手袋も!! 何一つ持っていないからです!!」
慈悲に満ちた私の天使は……溢れんばかりに怒っていた。
「いや、コートがあったら、割と大丈夫ですよ?」
「ウソ! 手を握った時冷たすぎて吃驚したから! 保冷材でも握ってるのかと思ったよ!!」
ずびしっと射貫かんばかりに、ゆかさんの指が私に向けて突き付けられる。うぐぐ、と思わず私は愛想をこめた苦笑い。
「いや、えーと……ほら、手袋とか意外と高いので。必須でもないし……」
「今時、安いです!! それにそんなに手を冷やして言っていいセリフじゃないから!!」
「はは、でもすいません。実は今日、私あんまり持ち合わせがないのでご飯代くらいしか……」
「いいです!! 一式、私が買い与えるので!! マフラーも帽子も耳当ても! あとあったかいインナーとかも買うので覚悟しておきなさい!!」
「はい……、ありがとうございます……」
その日、駅で待ち合わせた私たちは、そう言うわけで繁華街に防寒着買い物デートと相成ったわけであります。デートというか、母親にものを買い与えられる子どものようでもあるけれど、まあ、私、母親とこんなことしたことないからわかんないけど。
「この帽子はどう? まい。まいは黒がしっくりくるよね。あ、でもこっちのベージュも捨てがたい」
とりあえずということで入ったちょっとお高めの洋服店で、ゆかさんは楽しそうに私に毛糸の帽子を幾つも被せてくる。最初こそぷりぷり怒っていたけれど、気付けば着せ替え人形みたいな楽しみを覚えてる気がしないでもない。
しばらくの思案の末、ゆかさんは頭の上に大きな綿飾りがついた真っ黒な帽子と、茶がかったベージュのハンチング帽みたいな帽子を買ってくれた。
そして、早速私に黒い方の帽子を被せてご機嫌に店を出て私の手を引いていく。
「さ、次は何がいいかな、まい。手袋かなー、耳当てかな、あ、先にマフラー買った方があったかいかな」
毛糸で編まれた暖かい手袋のあなたが、私の手を握って引いていく。手袋越しに触れる体温がほんの少しだけ暖かい。
そんな瞬間に思わず頬が綻んでしまう。
年甲斐もなく甘えているみたいで少し恰好が悪いけど。
あなたがくれた優しさがどうしようもないほど暖かく感じてしまう。
もしかしたら、あなたは誰にだってこれくらい優しいのかもしれない。
他人の好意に慣れない私が、勝手に誤解してるだけなのかもしれない。
わからない、わからないけど、わからないままあなたの手をぎゅっと握りしめた。
そうしたら、あなたは私を振り返ってそっと笑ってて。
「ありゃ、どしたの、まい? 手、冷たかった?」
「え? ……あ、はい、ですかね?」
どうやら何か誤解を与えてしまったみたいだけど、あなたは甘えんぼだなあとでもいいたげに、どこかニヤニヤしながら、手袋の片方をとって私にぽいっと渡してくる。
慌ててキャッチした私が呆けていると、へへと笑ってそのまま手袋が取れた方の手で私の手を取って歩き出す。
あなたがくれたのは右手の手袋。
それを私がはめたから、私の左手とあなたの右手が手袋もなく繋がれてて。
端っこの手にそれぞれおそろいの手袋をつけて、二人で繋ぎあった手は触れる暖かいあなたの人肌を感じさせている。
あなたの手は手袋にくるまっていたから暖かく、私の手を温めるために指をそれとなく絡ませてくれている。そのつなぎ方が、どことなく恋人つなぎに似ていたから、胸が締め付けられるのを、あなたは多分、知らないまま。
はあ、神様『今日はイチャイチャしてもええんやで』とは言っていましたが、こんなに幸せでいいんでしょうか?
まさか後で手痛いしっぺ返しとか用意していませんよね?
まあ、仮に用意されてても、もう私、止まれそうにないんですけど。
受け入れてくれるか見極めるなんて言いましたが、どうにもそれまで待てそうにありません。
「ねえゆかさん、クリスマス、予定空いてます? よかったら、お出かけしたいんですけど」
「うん、空いてるよー。社会人は基本的にそう言う行事は暇だからね。でも、まいどうしたの?」
「んー、なんていうんですかね、私なりの重大発表がありまして」
「ほーう、クリスマスまでためる感じ?」
「はい、やっぱりロマンチックなのがいいので」
「そっか、……わかった。飲み会はいっても断っとくよ」
「ありがとうございます、楽しみです」
「うん、私も楽しみ」
断られたら、どうしよう。
叶わなかったら、どうしよう。
怖い想いはたくさんあるけど、何故だか告げないという選択肢だけはないのです。
逸る心臓が、燻る想いが、震えた指が、みんなして私の背中を押すのです。
いけいけって、進め進めって、もう止まれないよってにやにや笑って私を急かすのです。
あなたは私の想いを受け容れてくれるでしょうか。
あなたは女の子が好きな人でしょうか。
わからない、わからないけれど。
この想いはもう止まりそうにありません。
ぎゅっと、あなたの手を握りました。
そしたらあなたは不思議そうに、でも楽しそうに私に笑いかけてくれました。
そんなあなたを見て、私は震えた指で必死になって祈るのです。
どうか、あなたと私の歯車が噛みあいますようにと。
どうか、私の気持ちがいつかあなたに届きますようにと。
願いながら、でも、ふと想いました。
祈ってばかりでは始まりませんよね。行動に移さなければ、言葉にしなければ。
この想いは形になってくれません。
あなたの手を優しく握ったら、私は歩きながら、手袋の付いた右手と合わせた両手でゆかさんの手を包み込みました。大事大事な宝物をそっと守るみたいに握りました。
「えへへ、ゆかさん、大好きです!!」
「もう、まいはそればっかだねえ」
先への不安は多すぎて、とてもじゃないけどきりがありません。
でもまあ、今日くらいイチャイチャしててもいいですよね?
雲が陽を隠した冬の寒空の下、私は今の目一杯の幸せをあなたとじっくり噛みしめました。
さあクリスマスまでもうちょっとです。
女の子がただイチャイチャしてるだけ キノハタ @kinohata
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