4-2 終

 どうにかして誕生祭と復興記念が行われた。

 そこで、正式に「異国民の移住許可」「異国民への差別撤廃」「軽度の魔法使用なら可能」「貧困層の復興」が決められた。魔法に関しては騒然としたけれど、エリスなりに考えはあるのだ。

「まだ魔法を恐れる人がいるのは承知の上です。しかし、プルメリアの発展と先進のために、自然の力をお借りしましょう。その為に勉学の普及も致します」

 彼女の言葉によって皆うなずいて、納得してくれた。

 異国民に関しては、受け入れ賛成の声が大きかったのだ。国内にある意見箱にて、賛成を望む声は多くあった。反対を述べていたのはほんの少数だと発覚。

 でも、望まれた理由には澪の存在があったという。

「いつの間にか人気者だとは……」

「や、そんなつもり、無かったけれど」

 目の前で大臣らが演説する中、オレと澪はこっそりと小声で話す。

 プルメリア周辺独特の顔立ちに、オリエントの精悍さが相まっている。そうあって澪の顔つきは幼そうに見えて逞しげだ。おまけに政治絡みにはよく貢献するし、とっても働き者。彼を支援する人たちは少なくない。実際、小さな子供にお姉さん方には人気がある。

「一件落着でいいじゃないか」

 そうオレが笑いかけると、澪もそうだな、と口角を上げて返してくれた。



 堅苦しい前座が終わって、オレらは自由時間を貰った。

「お前らがここにいることが理解できない」

「妨害も何もしていないからいいだろ」

 が、オレは黒百合の菖蒲と行動している。もちろんエリスに澪や隊長もいるが、菖蒲のことを気にしていないようだ。

 今いる露店商店街の第三区は、様々な出店と人でにぎわっている。食べ物屋が主である。他にも装飾品販売もそこそこ多い。

「リオン! あれ! 食べましょう!」

 急に腕を引っ張られて足を崩しかけた。数時間前は女王として見回りをしていたエリスだが、今はもうそんな面影は見当たらない。先ほどからずっと食べてばかりだ。よく胃が破裂しないな。

「おいリオン。あれはどうだ」

 ワザとなのか、菖蒲が逆方向から引っ張ってきた。いや、これは絶対に意図的だ。そうに違いない。こうして俺は左右反対側から引っ張られる。正直辛い。腕が千切れそう。

「あら……黒百合はあの娘と行動しないのかしら?」

「アレイなら勝手に大食い大会に出て帰ってきていなくってな」

 めりめりと両側が引っ張り出す。お互い手加減をしていないよう。腕が引きちぎられそうで、何か言おうと思うのだが。二人の口論に割り込めるわけがない。

「た、隊長……」

 声を絞り上げて助け船を要求する。だが。

「ふむ……よし澪。どこに行きたい?」

「誰か助けろよ! おい澪!」

「ごめん。ちょっと無理そう。……っていうのは冗談だ」

 瞬きをしたときには、もう両側からの圧力が消えていた。澪が体術を使って振りほどいてくれたのだ。そこで周囲からの視線に気が付く。お祭りとあって、様々な人が来ていたのだが、見世物になるなんて思いもしなかった。

「全く……エリスはともかく、菖蒲は帰れ」

「ほう。俺に散々貸しをつけたくせによく言えるな?」

「貸しなんてやった覚えがないんだが」

「しただろう。貧弱なお前のために敵に止めを刺していたのは俺だ」

「……そうだったか?」

「ああそうだ」

「でも、そのことは仕方のないことかもしれませんね」

 サッとエリスが割り込んで、勝気に微笑む。一体どうしたんだ、と言いかけたが彼女はウインクをする。

「リオンは、誰かを傷つけるために剣は振らないわ」

 一瞬菖蒲は呆気にとられるも、納得した顔になる。

「さすがお人よしだな」

「……ということで、早速あのお店に」

「あ、ちょっと待て!」

 オレの制止を受けないでエリスは走り出した。もちろん、オレの手を握りながら。その後ろを澪と菖蒲が追いかけてきた。隊長は、それより遠くで笑っている。

「リオン、こういうのも悪くないですわね」

「……そう、だな」

 オレに微笑みかけてくるエリスは、女王であり普通の女の子だった。

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白薔薇の聖騎士 洞木 蛹 @hrk_cf

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