4-1
あの日から三日が経った。
その間、オレは剣を振るって戦う事は禁止された。それは澪にも課せられた事である。……要は、しばらく休んでおけとのこと。
「エリスのヤツ、何企んでいるんだか……」
ベッドの上でふてくされていたら、澪が苦笑する。
「そりゃ、旅の疲れを癒す為に、とかじゃないのか?」
「それはそれで有難いけれど……」
帰ってきたとき、着いた場所はお城のホールだった。そこではモルス隊長がこれからどうするかを国民に話していた所で、オレらは隊長の真ん前に戻ってしまった。
急な登場に場は混乱して、黒百合の二人は身の危機を感じたのか逃げ出して行った。オレらも、と思ったが隊長に思いっきり抱きしめられたし……それに澪とエリスも一緒だった。
そうして、誕生祭の続きを行うためにまた準備がされた。オレと澪とエリスは休暇を取らされ、暇を持て余している。オレらはともかく、エリスがとっていいのだろうか。
でも、一番疲れたのはエリスだろう。
「あら、ここにいたの?」
その疲れたはずのエリスがやってきた。髪は見るからにして艶があるし、顔色もいい。そんな彼女は普段のフリルとレースの衣装ではなく、白いワンピースと薄桃色のケープ姿。普段着だ。エリスはあまりこの格好で出歩かないので少し驚いた。
「女王としてじゃなくて、一人の人間としてお話がいたいの。来てもらえない?」
いつもの気風ある言葉づかいではない。もうただの女の子に見える。
案内された所はエリスの一人部屋だった。思えば澪はここに初めてはいる筈だ。
閉め切っていたせいか、部屋はもわん、と甘い香りがする。ベッド周りはもちろん、少し散らかったまま。
「ここは……?」
不思議そうに澪が周囲を見渡す。それを面白がってか、エリスはくすくすと笑う。
「私の部屋よ。リオンしか入れた事が無いけれど……本当は澪も入れたかったの。けど、最近忙しかったでしょう。なかなか誘いにくくって」
「それで、話しってなんだ」
一息ついて、エリスはまじまじと見て来る。その視線は女王のときのものだ。思わず身が固まる。
「お二人は、私を女王として慕ってくれますか?
昔の私は、謝っても謝りきれない事をしてきました。それでもなお許していただけますか?」
「何言ってんだよ、エリス。オレにとってエリスは大切な女王だよ」
「リオンの言うとおり。もし助けてくれなかったら生きていなかったかもしれない。こっちだって、感謝してもしてきれません」
「二人とも…………ありがとう。私ね、シスルに使われた後、とても後悔したの。こんなことすべきではなかったって。それで、彼の元から逃げた。そこで、リオン。あなたに会ったの。あの時のあなたを見て、この国を救えるなら救いたい。せめてもの償いをしたい。心からそう思ったわ。女王の娘っていうのは嘘だった。嘘だと気づかれそうと怖かったけれど、みんな信じてくれた。……嬉しかった」
涙ぐみながらエリスは話す。
「確かに家族を失ったのは辛かった。……けどさ」
「けど?」
「澪とエリス、それに隊長とか……黒百合にも会えなかった」
「そう言われれば、そうかもしれないな。こっちは、家族と離れて気が付いたら居た身だったけど。今が楽しいし、いいかな」
な、と澪と見合って笑った瞬間、柔らかくて甘い匂いが包んだ。すぐ近くにエリスの顔がある。体には華奢な腕が巻かれていた。
「エ、エリス!?」
「急にどうしたんですか!」
「……ありがとう、二人とも」
オレと澪を抱きしめたエリスは、顔を上げて微笑んでくれた。
こんなに可愛い顔をする彼女が魔女だなんて信じられない。いや、そんなわけ無いんだろう。あれはきっと、エリスではない。そんな気がする。
「ねぇ、まだこうしていてもいいかしら」
「いや恥ずかしいから離してくれ」
「それよりも、この部屋はなんですか……異様なまで散らかっているというか」
「な、それは……ええと……リオンがやってくれないからよ!」
なんというあてつけ。さすがのオレもムキになってしまう。
「んだよ! 片づけてないエリスがいけないんだろ」
ふい、と顔を背けるエリスが可愛いせいか顔が紅潮するのが分かる。
「……確か、リオンはもっと身の回りを綺麗にしろって言われていたような」
「やっぱりそうね」
「だーかーらー!」
こうやって騒いで笑い合えるのは心から楽しいと思える。それに、幸せだと感じられる。
思い返せば、昔はこんな風に友達とはしゃぐことは無かった。絵本を読んでばかりの毎日だった気がする。
それが、今はこうだ。別の国からやって来た親友がいて、大切な人もいる。
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