第99話 新作ラノベを書くための気持ちの整理―― ホーリーランス


 ――記憶が人を動かす。


 幼い頃の幽霊の記憶が、今思っているあたしを考えさせているのである。

 あたしにとっては嫌な記憶だ、トラウマだ。

 だって、あたしが7歳の時に出逢った幽霊、正直怖かかったんだから。それが脳の中で記憶がくっついて、あたしを正当化し続けている。


 正当化もなにも……もう終わったことだ。


 だから、あたしが幽霊の記憶を忘れれば、なんだか、自動的に自分に言い訳する自分とお別れできるような……気がしている。



 ――最初に幽霊と書いた。

 怖かったあたし……あの7歳の女の子の幽霊は、あたしにとっては守護霊のような存在で――幽霊が存在するという言い方もなんだか変だけれど、あたしに暗示しようとしたかったのかもしれない。


 お姉ちゃんは、本当は怖がっているんだよって……。


『でもね……。それは幽霊を怖がっているお姉ちゃんでしかないんだからね。幽霊を見た幼い頃のお姉ちゃんの記憶なんだって!!』


 ん? 


 何か聞こえて……




       *




 どこからともなく、美しい声が聞こえてくる。


 ……新子、……トモカよ。


 あたしは知っていた。だから思い出した。

 それは聖人ジャンヌ・ダルクさまの苦難をだ。


 その声は、もしかして聖人ジャンヌ・ダルクさま?


 カトリックに信仰があるってほどじゃ……でも憧れるよね。

 きっとそう、ジャンヌ・ダルクも無念だったはずである。

 どうして私が百年戦争からあなたたちを解放したのに、どうして私が火刑に処されなければいけないんだ!! 

 無念だっただろう。


 あたしは両手を握りしめて、跪く。まるで教会の礼拝のように跪く。


「ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま……。あたしは今までずっとこの世界の平和のために生きて……生きてきたけれど、それも無駄な幻影だったのでしょうね。だって聖人ジャンヌ・ダルクさまは……さまは何も……」


 そんなことはないぞ!! 新子なにがしよ……


 どこからともなく、綺麗な言葉が聞こえてきた。


 いいか新子なにがし?


「はい……」

 と返事する。


 お前は経験を積んで感性を上げてきた。文才としての感性を上げてきた。


 ……あたしは無言。


 いいか新子……なんとかよ……。確か、トモカ?


(……覚えてくださいね)


 我ジャンヌは、かつては英雄と呼ばれた。


「存じています」


 それから魔女の烙印を押され異端審問を受けた。しかし、最後に聖人として列聖に至った。いいか、新子なんとかよ。黒魔道士の上級職が大魔導士であり、さらに上の上級職が賢者であるぞ。


 ??


 これRPGの話……だよね。

 何で? ……まあ話を聞こう。



(あの……黒魔道士じゃ上級職に上がっても、レイズの蘇生魔法は習得できないと。……まあ、賢者くらいになれば大丈夫かな? って)

 作者よ、あんたRPGしか知らんのかいな?



 ……いいか新子!


「はい?」

 今度は苗字だけだ。


 大火災で燃えてしまったノートルダム大聖堂の復興を信じてほしいのだ。そして復興を祈りなさい。


「……あの。……あたしは別にカトリックじゃないのですが」


 まあ聞きなさい。


「はい……」

 なんか突飛な話になってきたぞ?


 つまり、私ジャンヌが言いたいことはな、祈りの先にこそ復興があるということだ。魔女として火刑に処された私は祈った。そして信じた。


「……神に?」


 そうだ。私はあの大聖堂で、シャルル7世の戴冠式に参列した思い出の教会だ。私は哀しい。思い出の教会があんなにも……まるで自分の火刑のように燃えてしまって。だから、聖人ジャンヌ・ダルクが預言しようぞ!!


「何を?」

 なんか話がとびとびだけれど……まあ最後まで聞こうよね。


 魔女として烙印を押されて虐げられてきた者は、必ず聖人となって列聖できる。私がそうであったようにである。


「……あのだから、あたしはカトリック教徒じゃないのですけれど。それに私は人間で魔女なんかじゃないですから」


 賢者になるにはな、山奥の古城、ついになっている最上階の塔をつないでいるロープの真ん中で落ちれば神殿で賢者に転職できることを教えておこう。……これ以外と知らない人が多くて。昔は攻略本の袋とじに載っていたけれど、まあ最近ではネットで検索するかな。


「……ああ、あの名作RPGの話ですね」


 また、レベルは初めから経験値を積まなければならなくなるけれど……それでも、ずっとずっとレベルをぐんとあげれば必ずラスボスは倒せるからな。……そういう風に設計されておるから、安心してRPGをしなさい。


 何の話これ??


 これはお前の物語なのだから……


「はあ、そうですか?」

 とあたし。


 お前もいつの日か聖人になったら……


「なりませんて!!」


 その時はホーリーの最終魔法を獲得しなさい。そう武器はーそうだなホーリーランスがいいだろう……。ああっ……、そうだった。あれは竜騎士オンリーの武器だったっけ?



(……忍者もですよ。ジャンヌ・ダルクさま)



 ……その、ランスだけに……まあ、槍やりがいのある名作RPGだったな。新子トモカよ。


 やっと、ちゃんと名前言えてくれたね。よかった。

「ノートルダム大聖堂だけにですね。聖人ジャンヌ・ダルクさま!!」


 その通りだぞ!! 可愛いぞ……聖人新子友花よ。


「……あ、あたしは聖人じゃないですから」

 あたし、新子友花は普通の人間です。



 ノートルダム大聖堂の別名は、ランス大聖堂である。





 聖人聖女編 終わり

 ラノベ部編に続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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【聖人聖女編】んもー!! 新子友花はいつも元気なんだからさ……、あたしのことをお前って言うなーー!!! 橙ともん @daidaitomon

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