流星屋の災難

Phantom Cat

1

 Tマイナス5, 4, 3, 2, 1……ゼロ。


 予定と寸分の狂いも無かった。コンピュータの制御により、流星発射装置ミーティアランチャーの化学燃料スラスターが一斉に作動。噴射されたガスが船体に当たる、かすかな音が伝わる。


 人工流星シンセティック・ミーティアを乗せた合計50個のランチャーが、俺の宇宙船ふね「コバヤシマル」の針路の逆向きに、みるみる遠ざかっていく。

 コバヤシマルは全長25メートルの小型貨物船だ。カーゴスペースの両脇に太陽電池パネルが広がり、船尾にはエンジンブロック、船首には直径5メートルの球形をした、定員2名のブリッジがある。といっても今そこにいるのは俺一人だけだ。人間としては。


『全スラスター、噴射停止。減速は全て予定通りです。突入回廊エントリーコリドーに到達。ミーティア放出開始』


 今、俺の聴覚中枢に疑似音声を送ったのは、俺のたった一人(?)の相棒、体内埋め込み型インプラント AI の「ステラ」だ。この家業を始めて3年になるが、その間ずっと「彼女」は俺を支えてくれてきた。


「ステラ、イメージを回してくれ」


『了解です、リック』


 ステラが応えると同時に、ランチャーから次々と流星が打ち出され、突入回廊に吸い込まれていく映像が俺の視界に現れる。48番、よし......49番.......50番、全て成功。


「ふう。これでとりあえず、依頼はクリアされたな」


 俺は一つため息をつくと、体の力を抜く。無重量状態では、背もたれに体を預けたりしなくても、ただそれだけで十分リラックス出来る。


 俺が今座っている……というかハーネスで縛り付けられているのは、マーティン・ベイカー Mk.14 。かつて戦闘機が有人機だった時代に、パイロットを乗せていた射出座席イジェクションシート。ただし安全のため射出装置のロケットは外してあるが。

 元々これは海軍ネイビーの戦闘機パイロットだった親父のコレクションの一つだったんだが、俺の独立開業祝いにプレゼントしてもらった。自慢の一品だ。必要最小限のクッションの座り心地は、地上ではひどかったらしいが、ゼロGの宇宙では快適そのもので、サポート感もバツグンだ。


 今回の仕事の依頼人は、日本のとあるIT企業。創立50周年記念パーティーに合わせて、50個の流星で自社のロゴを描いて欲しい、とのことだった。


 こちらからはもう地平線の向こうになって見えることはないが、約10分後、札幌を中心とした半径100キロメートル内の地上で、明るく輝く50個の人工流星が10秒間にわたって夜空を彩ることになるだろう。後は再加速して船の軌道に戻ってくるランチャーたちを回収すれば、今回のミッションはフルコンプ、ってことだ。


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