5

 いきなり船のメインスラスターが作動。強烈なGで俺の体はシートに抑えつけられる。


「ステラ、何が起きた?」


『わかりません。ナビゲーションシステムが誤動作しています。メインエンジンが針路の逆方向に推力100パーセントで稼働中。このままでは大気圏に突入します』


 ステラがそう伝え終わったその時、警報がブリッジに轟く。脳裏に視覚メッセージ。FUEL BINGO(燃料ゼロ)。そしてメインエンジンが停止し、キャビンはゼロGに戻る。と同時に、コンソールのホロディスプレイにアンダーソンの顔が現れる。


『やあ、リック。君の父親を恨むがいい。バルカン半島で私の家族を殺した、ジョージ・マクドネル元中尉をね』


「!」


 うすら笑いを浮かべながら、アンダーソンは続ける。


『君は父親を死に至らしめた罪の意識から、自らも大気圏に突入して自殺する。そういう筋書きになっているのさ。それじゃあな、リック。あの世で父親と幸せに暮らすんだな』


 そこでアンダーソンの映像は、唐突に途切れた。


 ……。


 やられた。


 全てはヤツの仕業だったのか。おそらく彼の家族は第2次コソボ紛争の時に、親父が参加した国連軍の空爆で死んだのだろう。その復讐か……


 ヤツのシステムには俺の船を操る不正プログラムマルウェアが仕込まれていたようだ。それを俺は何の疑いもなく船にインストールしてしまった。ソーシャル・エンジニアリングにトロイの木馬……大昔からあるクラッキングの常とう手段じゃないか。ちくしょう……そんな手に引っかかっちまうなんて……甘すぎだろ……


 今更後悔しても仕方ない。まずはNo.4を何とかしなくては。おそらく自爆装置は起爆信号さえ届けば作動するはずだ。それは俺がこの手で流星内に仕込んだのだから。しかし……あらゆる通信コムシステムが動かない、となると……どうしようもない。


 ……いや、そうでもないぞ。


 そうだ。俺が今着ているEVAスーツ(船外活動用宇宙服)にも無線がある。これは船のシステムとは完全に独立している。これを使って起爆信号を送れないか? もちろん出力は小さいが、船のアンテナと接続すれば手近な通信衛星コムサットくらいには届くはずだ。


 そうと決まれば急がねば。俺はブリッジの内壁のパネルを剥がしてアンテナからのケーブルを引き出し、EVAスーツのアンテナ端子に接続する。端子形状が違うので、加工するのに時間を食われてしまった。No.4が起爆可能高度の下限に達するまで、あと1分。


「ステラ、これで起爆信号を送れるか?」


『やってみます』


 そして、言葉通りステラは見事にやってくれた。


『No.4からのハートビート(生存信号)が消滅。成功しました』


「よかった……」


 俺は全身の力を抜く。これで親父たちは無事だ。だが、安心してる場合ではない。今俺の船は大気圏に突入し、それこそ流星になろうとしているのだ。

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