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 既に船体の表面温度が上がりつつあった。太陽電池パネルが吹っ飛び、船体が微妙に回転し始めたので、やむなく俺はブリッジを本体から切り離す。ここは本来緊急時には脱出カプセルとなるのだ。だが、それは軌道上で救出を待つためのものであって、大気圏に突入できるほどの耐熱性も強度もない。それでも船体から切り離せば姿勢を安定させやすくなる。ま、どっちみち俺の寿命をわずかに伸ばすくらいにしかならないだろうが……


 それにしても、流星屋が流星となって死ぬとは……全く、タチの悪い冗談だぜ……それでも親父を守ることはできたから、それだけは満足だが……


 死ぬ間際の人間は、走馬灯のように過去を思い出すという。走馬灯なんて見たことは全くないが、プロジェクションマッピング的なものらしい。だけど確かに今の俺の脳裏には、子供の頃に親父と遊んだ記憶が蘇っていた。


 親父は卓球が得意だった。彼はいわゆるカットマンで、台から遠く離れたところにいて、俺がスマッシュを決めても決めても拾い上げて返してくる。しかも返ってきたボールにはスライスの回転がかかっていて、そのまま打つと大抵ネットに引っかかる。


 ん……スライスの回転?


 そうだ!


「ステラ、ブリッジを回転できるか?」


『可能です』


「よし、それじゃ突入時の熱が船体の一部に集中しないように、最適な速度でスライスの回転をかけてくれ」


『了解しました』


 ステラが応えると同時に、スラスターの噴射音が一瞬聞こえたかと思うと、前のめりにGがかかり始める。俺の言うとおりに「彼女」がブリッジを回転させ始めたのだ。


 我ながらナイスアイデアだ。回転すればジャイロ効果で姿勢も安定するし、ブリッジは球体だからスライスをかければ揚力が生まれ、降下速度も抑えられる。うまくいけば溶けずにそのまま大気圏突入できるはず。かなり分が悪いギャンブルだが。


 そして。


 俺は賭けに勝った。5分後、十分減速したブリッジは破損することなく高度3万メートルの成層圏に達したのだ。窓から外を見ると、空が夕焼けに赤く染まっていた。船の元々の軌道から言って、おそらくここは日本海上空。期せずして里帰りしたわけだ。


 だが、ここからが問題だった。


 ブリッジに着陸装置はない。着水するにしても、パラシュートもないから衝撃が強すぎて、ブリッジは破壊され中の俺は死んでしまうだろう。


 必死に考え続ける。何か、生き残る方法はないか……何か……


 その時だった。


『リック、大丈夫か』


「……親父!」


 そう。それは、間違いなく親父の「声」だった。突入時のプラズマによる電波障害からは回復しているし、ここはもう地上の通信網のサービスエリアだ。インプラントされた電話も使える。


『状況は全て把握した。お前はすんでのところで私を助けてくれたんだな。だが、私は悪いニュースをお前に伝えなければならない。お前は今、日本の関東地域への落下コースを飛行している。今自衛隊がお前を撃墜する準備を整えている。お前は早く脱出……』


 そこで親父の声が途切れた。


「親父! おい、応答してくれ! 親父!」


 だが、応えはない。


 なんてこった。このままでは俺はSAM(地対空ミサイル)か何かにやられて撃墜されるようだ。親父の言う通り脱出しなくてはならない、が……


 どうしろっていうんだ?


 これは親父が昔乗ってた戦闘機じゃないんだ。脱出装置なんかあるわけ……


 俺はそこで、ようやく大事なことを思い出した。


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