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 あれからもう1年。早いものだ。アンダーソンは3か月ほどで、予備も含め合計7つの新型ランチャーを製作し納品してくれた。それらを制御するシステムも込みで、だ。いくら機動性が高いからと言っても、母船から最適なタイミングでランチャーを放出しないと、軌道変更のための燃料消費が大きくなってしまうので、放出を制御するシステムを船のナビゲーションコンピュータに予め組み込んでおく必要がある。そして今回は軌道変更にかなり燃料を使うので、ランチャーを軌道に戻すことはできず、それらもいずれ大気圏に突入することになる。


 突入テストも成功に終わり、5つ全てのランチャーは既に放出済みで、それぞれ軌道傾斜角の変更も完了している。後はオペレーション開始の瞬間を待つだけだ。そしてそのタイミングも、システムによって完全に制御されている。


 とうとうその時がやってきた。軌道を飛んでいる5つのランチャーのメインスラスターが次々に作動。減速を開始する。30分後、ペンシルバニア上空には西から東へ、西北西から東南東へ、南南西から北北東へ、西南西から東北東へ、そして北北西から南南東へ飛ぶ5つの流星が交錯し、夜空に大きく五芒星が描かれることだろう。


 ところが。


『緊急事態です! No.4が予定のコースを外れています!』


 ステラの切羽詰まったメッセージが、俺の聴覚中枢を直接刺激する。No.4 と言えば、西南西から東北東に飛ぶ流星だ。


「コースからどうずれたんだ?」


『イメージでお見せします』


 俺の脳裏に、地球の全体図とNo.4の現在位置、予定コース、実際のコースが浮かぶ。なぜか減速率がこの流星だけ大きい。高度も予定よりもかなり下がっている。


 なんてことだ。ここまで減速してしまったら、もう予定のコースに戻せる燃料はないだろう。しかも、この進入角は……


「まさか、隕石メテオライト回廊コリドーか?」


 隕石回廊は、流星として燃え尽きずに地上に届いてしまう突入コースだ。有人宇宙船が再突入リエントリする場合は当然このコースだが、俺たち流星屋にとっては避けねばならない事態である。


『そのようです』ステラが全く感情を交えずに続ける。『このままでは89パーセントの確率で20分後にパーティ会場付近を直撃します』


「!」


 冗談じゃない。だが、こういう万一の状況に備えて、人工流星には自爆装置の装着が義務付けられている。


「ステラ、No.4を自爆させろ」


『No.4、起爆信号に応答しません。というより、こちらからのあらゆる電波送信ができません』


「なにぃ?!」


 慌てて俺は運航局にデータリンクで接続を試みる。ダメだ。応答がない。音声通信も全てのチャンネルで試してみる。これも何一つ応答しない。


 いったい、何が起こったんだ?


 その時だった。


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