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実は今回のプロジェクトには、準備に結構な時間と金がかかっている。
今回、親父へのプレゼントとして俺が描くのは、
衛星の軌道傾斜角を変更するためには、当然だが推進剤が必要になる。しかも単純に軌道を変える方向にベクトルを与えればいい、というものでもない。推進剤を使えばそれだけ速度が増え、軌道の高度が変わってしまうのだ。だからそれを元に戻すためにも推進剤を使わなくてはならない。
なので、俺の船で軌道傾斜角を90度変えるとなると、もうそれだけで本体のタンクの燃料を全部使い切ることになる。もちろん増設タンクをフルに積んで全部満タンにすれば360度変えることもできるが……金がかかっちまってしょうがない。しかも今回はプレゼントなんだから完全に無償だ。親父のバースディプレゼント代を親父に請求するわけにもいかない。
まあでもこれが成功すれば史上初だから、それなりに宣伝にもなるだろう。だがどう考えても俺の船の軌道を変えるのは現実的じゃない。そこで、俺は流星ランチャーの軌道を変えることにした。船よりもよっぽど質量が小さいランチャーなら、軌道を変える燃料も少なくていいはずだ。
しかし既存のランチャーは減速して高度を落として流星を発射した後、また元の軌道に戻ってくる機能しかない。軌道変更ができる高機動ランチャーはないものか、と俺はずっと探していたのだが、1年前にようやくそれを作ってくれそうなところを見つけた。株式会社スペースサーカス。小型無人宇宙機メーカー。新興のベンチャーだ。
早速俺はそこのCEOである、カール・アンダーソンという男にヴァーチャル面会を申し入れた。
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アンダーソンは俺よりも2つ若い、27歳の白人男性だった。ヨーロッパ系の目の覚めるような金髪に、痩せぎすの黒縁眼鏡、見るからに才気煥発と言った顔立ち。飛び級に次ぐ飛び級で、20歳の時に宇宙工学の博士号を取ったらしい。
彼の会社のヴァーチャル会議室にいる俺の目の前で、彼の製品の一つである小型ロケットの3Dモデルがゆっくりと回転する。
「この当社の最新プラットフォーム『インディア』には、合計20か所にリアクション・コントロール・システムのスラスターが設置されています。今からデモをお見せしましょう」
俺の右隣でアンダーソンはそう言うと、眼鏡の鼻かけを、くいっ、と指先で持ち上げて見せた。それが合図になったかのように、俺の目の前でデモ映像がスタートする。
それはCGではないことを保証する第三者機関による証明書付きの、3D実写映像だった。無重量空間にランダムに置かれたいくつもの障害物を、「インディア」プラットフォームの宇宙機は凄まじい機動で回避しながら進んでいく。まるで大昔の映像ライブラリーで見たロボットアニメを見ているようだった。
「いかがですか? これをベースにすれば、お望みのランチャーはすぐに作成できますよ」
アンダーソンが微笑みながら振り返る。
「いいですね」俺も笑顔で応じる。
商談は成立した。
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