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この、人々を楽しませるために行う人工流星ビジネス――「
しかしこれは確かに誰でも出来るという商売じゃない。俺がこの商売を始めたのは、元々俺が
その会社は貯まる一方のデブリの問題に頭を痛めていた。その解決策の社内コンペで俺がこの人工流星ビジネスを提案してみたところ、上層部の評判が非常に良く、どうせなら独立してベンチャー立ち上げてやってみたらどうだ、と言われ今に至る。
前の会社はスタートアップ資金もかなり援助してくれたし、流星の材料となるデブリはいつもほとんどタダでくれるし、船まで無償で貸与してくれている。現在でも当社の一番の取引先である。とは言え、正直俺も最初はこのビジネスにどれだけ需要があるのかはあまり読めていなかった。実際、創業前はどのベンチャーキャピタルからも資金提供を断られたくらいだ。
ところが。
ふたを開けてみると、このビジネスは意外に需要があることが分かった。直接競合するのは花火だが、花火はせいぜい広くても半径数十キロメートルの範囲からしか見えない。だが、流星は花火よりも高度が遥かに高いため、半径百キロを超える範囲からも十分見ることが出来る。さらに、爆心から放射状に展開するしかない花火と違い、流星は自由に位置を設定出来るため、ちょっとしたロゴなんかも描くことが出来るのだ。
おかげで最近は「流星アーティスト」などと名乗る者も出現し、芸術性の高い人工流星が作られることも多くなった。というわけで、この3年でようやく俺の会社も(文字通り)軌道に乗り、採算が取れるようになったというわけだ。
だけど、これまでも決して順調な道のりだったわけじゃない。いろいろなトラブルにも見舞われた。そんな時に助けてくれたのが、親父だ。
ジョージ・マクドネル。第71代アメリカ合衆国大統領。
彼がその立場に着いたのは今から2年前になるが、俺が彼の一人息子であることは公然の秘密というヤツだ。とは言え、俺が6才の時に米軍の戦闘機が全て無人機にリプレイスされ、親父が横須賀から本土に戻ってからは、俺とはずっと離れ離れに暮らしている。
その当時、お袋はお袋で日本に仕事があったし、俺も日本生まれの日本育ちだったから、あまりアメリカに行きたくはなかった。既にその時点で「リチャード・コバヤシ・マクドネル」って本名よりも、「小林
まあでも、別にそれで親父とお袋は離婚したわけでもなく、ヴァーチャルワールドでよく親子三人で会っていたし、俺もその時親父にさんざん遊んでもらったので、離れていても全然さみしくはなかった、というのが実情だ。だけど俺も成長してから知ったのだが、実はあの頃親父は日本との13時間の時差を埋めるために、かなり無理をしていたらしい。だから俺は今でも親父が好きだし、とても尊敬している。
そんな親父の60回目のバースディが、1か月後にやってくる。
と言っても、親父の希望で、親族やごく少数の関係者だけが集まる、こじんまりとしたパーティーが開催される予定だ。だが俺は、あえてそれに参加しない。その代わり、パーティ会場である親父の実家があるペンシルバニア上空に、大きく流星アートを描く。それが親父に約束した、俺のバースディプレゼントなのだ。
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