第8話3人の王




 「イルじいいつも悪いな、あまり無理しなくて良いからな」


 「アレクさん、なんですかこの食べ物はどっから出てきたんですか?」



 イルムさんは酷く憔悴した様子で椅子に静かに座っている。



 「イルじいの能力だよ、何も無い場所から食べ物を生み出す、俺たちボトムサンズの食料はほとんどイルじいの能力で生み出した物だ。 最近は畑で野菜も取れなくなってきたし、ますますイルじい頼りになったしまってるわ」


 「申し訳なさそうに言うな、これも全て私の代で戦いを終わらせられなかった事が原因だからな。 本来ならお前達にはお腹いっぱいに飯を食わせてやりたい」


 「イルじい気にすんなって、俺らが勝って戦いは終わらせるから安心して隠居してな、じゃあそろそろ俺らは行くわ。 サナト、アイラそこの袋にどんどん食材を入れてってくれ」



 アイラさんは何も言わずに指示通りに袋に食材を詰めていく。 俺は満杯になった袋を縛って次の袋を広げアイラさんの食材を受け取る。 全ての食材を詰め終わると10袋以上になり小屋の外の台車に全て載せた。



 「じゃあ俺ら行くわイルじいじゃあな」


 「待て待て、新入りのサナトだけは少しここに残ってくれ、そんな身構えなくても良い。 少し話をするだけだ」


 「だってさ、サナト俺らはこれから広場で炊き出しする予定だから話終わったら広場に来いよ」


 「え、ちょっと待ってください」



 扉は閉められ、アレクさんとアイラさんは行ってしまった。



 「そこに座ってくれ」



 イルムさんに誘導され机を間にして向かい合うように椅子に座る、



 「まずなぜボトムサンズが出来たのかを話そうか、私の父は古くから商人をしていてね、国内外の商品の売った買ったで利益を上げていた。 


 そして私の父はどんどんと傲慢に王の様に振る舞うようになってしまった。 国中の商品は全て自分の裁量でどこに売るかを決めれるからな、大袈裟に言うと命を握っているのと同じだ。 


 その傲慢が最大限に膨れ上がった時、父はこの国の死んだ王セイロッドの手によって殺されてしまった。 私は我慢出来なかった父が悪かったとは言え、殺す必要まではなかったはずだ。 母はショックで頭がおかしくなり1年後には死んだ。


 セイロッドは父の作った商会の仕組みをそのまま乗っとり国を大きくした。

 その時の私はまだ小さな子供で何も出来なかった。 大人になった私はこの下級街の貧困に苦しむ人達に、父の残りわずな財産で食料を与え、畑を作る知恵を与え、水路を引っ張る方法も教え、教育し王国に不満がある兵士、人々の集団ボトムサンズを作り上げた」



 「じゃあ今のこの争いは全てあなたが引き起こしたって事ですか?」



 この場でイルムさんを鎌で殺せば戦いが始まる前に全てを終わらせられるかもしれない。 だがこの人にはもうそんなに時間が残っていない。 能力を酷使しすぎているのはもちろんだが、体の先端が黒ずんで壊死が始まっている。 何かの病気か?


 「この話には続きがある。 ボトムサンズは最初は調子が良かったんだ、どんどん王国の兵士を殺し将軍まで殺した。 そして残った主要な王国の人物は女王のディーバ、セイロッドの娘のセピアと最強のベルトワルダ、将軍アランにキルギスだ」


 「さっきからなんで俺にこんな話を?」


 「気づいてしまったんだよ、私も父と同じように振る舞っていた一緒だって、人を商品と同じように考える傲慢な人間だった。 それに気づいたらもう前線に立って、指揮をするなんて出来なくなっていた」


「だから、俺にどうしろと言うんですか」



 長い沈黙の後イルムさんは口を開いた。



 「君は王国のスパイだ。 それはもうわかっている、この不毛な戦いを終わらせてくれ」

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