第15話別れ
再び教会に戻り、負傷者達の様子を見ながら奥に進んでいく。
そこで負傷者の治療に当たる牧師のアルサランさんを見かけ声をかける。
「こんにちわ、アルサランさん。 ネルさんはどこにいますか?」
「おお、久しぶりだねサナト君! 君が居なくなってからもっと負傷者の数が増えてきてね、手足の先が黒くなる病気みたいなんだが原因が分からなくてね、何か分かるかい?」
俺はイルムさんの症状を思い出すが、それは余計な混乱を生むかもしれないので言わないでおく事にした。
「この症状に似た人は見たことあります。 手足の先が黒くなって死んでいくような感じですね。 詳しくは僕も分からないですけど、ここの負傷者たちにも広がってるのを見るとなにか感染症みたいなものだと思いますね」
「そうか、何か治し方とか治療の糸口がわかればやりようがあるんだけどね」
「私なら治せるかも!」
俺の体の影に隠れていたセピアは会話聞いて飛び出し、床に寝ている負傷者に手をかざした。
負傷者の手足の先の黒化は引いていき、正常な色に戻っていく。
「良かった! 残りの人も全員治しちゃうね!」
「いや! やめろセピア」
「何で止めるの?」
「自分の人差し指の爪を見ろ、うっすらとだが爪の先が黒くなってる。 完全に治せてるわけじゃなさそうだ。セピアの体にも影響が出るなら治す必要はない」
鎌を使ってからこういう死の感覚には敏感になった。 負傷者達を見渡しても後どれくらいで死ぬのか、治療したら助かるのかが手に取るようにわかる。 今セピアが手をかざした時に。負傷者の死の匂い、色がセピアにほんの少し付いたのを感じた。
「じゃあほっとけっていうの!」
「そうじゃない、俺がちゃんとした治療方を考える。 それにここはもう明日の攻撃で1番に狙われる場所だ。 教会は目立つし人がたくさん居る。 今は少しでもどこかに負傷者を移動させる事が大事だと思う」
「サナト君。 それは大丈夫だよ。 さっきアレク君の部下から明日の攻撃の事は聞いて移動させられる人は移動させようと思ったんだが、皆さん死ぬならここで死にたいらしい」
アルサランさんがそう言うと、負傷者の1人が体を起こし喋り始めた。
「ここにいる奴らはボトムサンズで噴水広場での式典の襲撃や軍への攻撃など率先して汚れ仕事をやってきた奴らばっかりだ。 俺らは罪の無い貴族達もたくさん殺した、それが間違っていたとは微塵も思わないがここから逃げるのは間違って居ると思う。 俺らのような汚れた人間より未来ある子供とかを遠くに逃してくれ」
そして周りの負傷者達も起き上がり、口々に声を上げた。
「というわけなんで、ここの負傷者の事は私に任せてください。 ネルさんを探してるんですよね? ネルさんは2階でミカさんの看病をしてると思います。 早く行ってあげてください」
アルサランさんにそう言われ、俺達は2階に登った。 部屋に入ると家具が壊れ、本が床に散乱していた。 そしてその荒れている部屋の奥にネルさんが縮こまって座っていた。
「ネルさん、どうしたんですか?」
ネルさんは長い沈黙の後、口を開いた。
「ミカが死んだ」
ベッドを見ると脇から腕が片方毛布から飛び出していた。
その腕は先ほどの負傷者達とは比べ物にならないほど、黒化が進んでいた。
生と死のコンフューズ 〜即死の鎌は一度きり!?〜 @fox3011
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