生と死のコンフューズ 〜即死の鎌は一度きり!?〜
@fox3011
第1話温かい手
「寒い」
朝ベッドから起きた俺はそう呟いた。 今は12月の初め朝方は家の中でも吐く息が白くなる。
すぐに暖炉に木を置き、マッチで火を付けて暖を取る。 体が温まったきた頃に、窓を叩く音がしてきた。どうやら窓を叩いているのは3日前に買い出しの帰りに出会ったセピアという女の子だった。
せっかく暖かくなってきたのに、暖炉の火を消して、使い古してボロボロの上着を着て、外に出た。
「サナトおはよう!」
「おはよ、今日も元気がいいね、俺はもう一回寝てきても良いかな」
「ダメ、下級街のさらに下の方を案内してくれるって約束したでしょ」
なんでこんな汚い所に興味があるんだろうか。 セピアは歳は俺より1つ年上の19歳。 この下級街では滅多に見ない毎日風呂に入っているだろうと思われる綺麗で長い赤い髪と宝石のような赤い目が特徴だ。
「またその服? 昨日と一緒じゃん」
俺の服を見ながら嫌そうにセピアは言った。
「ここは下級街だぞ? 服は3日来てから帰るのが基本だよ今日は下着を変えたし」
「サナトがそれで良いなら別に良いけどさ」
「そんな引きつった嫌そうな顔で言われても」
「はい、もう服の話はおしまい! 早く地図を見て下の方はどんなになってるか確認してよ」
「はい、はい、わかったよ」
坂を下りながら、鞄からお母さんがくれた地図を取り出し開いた。
「今俺達が居るのは下級街の上層みたいだね、ここから坂を降りれば降りるほど治安は悪くなるみたいだね。 やめておこうよ」
下級街の上層の建物はレンガ作りの家が並んでいて、まだ人が住んでいるレベルの建物だと認識できる。
「やだ! もう上級街と中級街も見たじゃん。 後残ってるのは下級街だけなの」
「だって危ないじゃん。 俺は下層に住んでるけど街の事は何にも分かんないし」
「本当あなたのお母さんは危ないと思う。 子供を買い物と訓練の時以外は一切家から出さなかったなんて」
「良いよ、母さんの話は俺はこれでずっとやってきたんだから」
「だって学校すら行かせてもらってないっておかしいよ」
「言っておくけどセピアはその危ない女の息子で学校すら行かせてもらってない男について来てるんだよ。
そもそもなんで初対面の俺に声を掛けたの? 絶対に身なりからして下級街の人間ではないのは分かるし」
「確かにここの出身ではないよ、それだけしか教えられないけど。 サナトに声を掛けたのはお姉ちゃんと目が似ていたから」
「目が似ていたからってなんだよその理由」
「じゃあなんでサナトは私が声を掛けてそれに応じたの?」
「それは母さんに顔が似てたから」
セピアは糸が切れたように手を叩きながら笑い始めた。
「なんか喧嘩してるのがバカらしくなってきた。 今回は私が悪いわごめんなさい、あなたのお母さんを侮辱するような事を言って」
セピアはこちらに向けてしっかりと頭を下げてきた。
「こっちこそ怒って悪かったよ、今度お母さんを紹介するよ」
「ありがとね、じゃあ先に進みましょうか」
坂を下りていくと明らかに何が腐ったような臭いが強くなっていき、道の脇に座っている住人も痩せこけっている人が増えている。 家の質も悪くなっていき、レンガの家から少ないレンガの間にワラを敷き詰めたような急ごしらえの家が増えている。
「セピアもうそろそろ帰った方が良い、雰囲気がやばくなってきた」
「わかったよ、あ! ちょっと待って! 少し汚いけど猫が居たわ!」
セピアは猫を追って細い路地に入っていく。
「待ってよ」
路地から猫だけが戻ってきて、俺の足に擦り寄ってくる。 猫を軽く撫でてからセピアが向かった路地に入り、路地の突き当たりの曲がり角を曲がってさらに細い道に入った。
そこにはセピアが男達に体と口を押さえられながら必死で抵抗していた。 全速力でセピアに向かって走る。 セピアを押さえていた男が1人、木の板をこちらに向けて振り下ろしてきた。 すぐに反応し、男の膝をかかとで踏み抜き男の膝は本来ありえない逆方向に
曲がっていった。
「サナト!」
「セピア!」
膝が折れた男の叫び声に他の男達が怯んでいる間にセピアを男達から引き離した。
「怖かった」
いつもはお喋りのセピアの肩は小刻みに震え、声もか細かった。
「早くここから帰ろう」
セピアの手を引き路地から出ようと急ぐ、後ろを振り返ると男達の数は増えており人数は10人ほどになってこっちに向かって追いかけてくる。
「逃すな!」
膝を折られた男がこちらを血走った目で睨んでいた。
「セピア! 肩に捕まれ!」
「うん!」
セピアを抱え上げ路地を走る。 家の方向に戻ろうと坂を登ろうとするが、坂の上からさっきの男達に先回りされており、仕方なくさらに深く下へと降りて行った。
いつの間にか辺りから人は消えて、追手の叫び声も聞こえなくなっていた。 セピアを下ろして2人で壁にもたれかかり、ひと息ついた。
「もうここまで来れば大丈夫だろ。 後はどうにか上に戻れば良いだけだね」
「そうだね、それにさっきはありがとう。 命の恩人だよ」
「いいよ、それより怪我とかない?」
「さっき逃げる時に右足を、少し捻っちゃったかも」
「ちょっと見せて」
セピアは少し足を引きずりながら俺の前に足を持ってきた。 セピアを座らせて右足の状態を見るために高そうな靴を脱がせと確かに少し右足首が腫れている。 服の袖を片方破って足首に簡単な固定を施した。
「ちょっと立ってみて」
「うん、わかった」
セピアは立ち上がって周りを少し歩いた。
「すごい歩きやすくなったよ! どこでこんな事覚えたの?」
「お母さんが医者をやっててそれで色々と教わった。 止血の仕方とか体の仕組みとか本当に色々、さっきの男達と戦ったのもお母さんに教えて貰ったからなんとか戦えたよ」
「そういう事だったんだ。 私のお母さんっていうか実は私!」
「それ以上はお嬢様喋らないでください」
建物影から白い髭を蓄え綺麗なスーツを来た男が現れた。
「ホルド! ありがとう助けてに来てくれたのね! サナト紹介するわ、私の執事のボルドよ! 小さい頃からずっと私のお世話をしてくれているの」
「お嬢様なぜこんな汚い所にいらっしゃるんですか、それにその汚らしい男はほらこっちに来てください。 着替えを用意していますから」
セピアはすぐにホルドの所に行こうとしたが俺はセピアの前に立ちそれを止めた。
「サナトどうしたの?」
「この人からはさっきの男達と同じ殺気がする。 この人はセピアを殺す気だよ」
「何言ってるの? ホルドがそんな事するわけないじゃない」
セピアは何の疑いもなくホルドに近づいく。 その瞬間ホルドを短剣を取り出して、セピアに向けて振りかぶった。
辺りに大きな音が響く、セピアは壁にぶつかって派手に転んだ。 俺の腰には深々と短剣が突き刺された。
全身から力が抜けその場に倒れるとすぐにセピアが駆け寄ってきた。
「サナト! サナト! ホルドどうしてこんな事を」
「どうしてって、しいて言えばあなたはもう必要ないからですかね」
「そうです、あなたはあのベルトワルダ様の妹だが学業も平凡、剣術に関しては人並み以下、魔術にいたっては1つの魔法も覚えられないという落ちこぼれ具合。 オーグリッド王国の王族には相応しくありません」
「それは自分でもよく分かってる。 私は、私はただのクズよだからって殺すの?」
「はい、殺します。 セイロッド王が死んだ今、奥様ディーバ様を一旦の女王とし、その間、王の候補の選定期間が始まります。 その候補がセピア様とベルトワルダ様のお2人でございます。
ベルトワルダ様が選ばれるのは必然ですが、それでもセピア様が居てはあなたを利用しようとする臣下が現れ、新たな争いが起きるかもしれません。
王は無駄な争いは好まぬ性格でした、なのでセピア様には選定期間を待たずここで死んで頂くのが1番価値のある死に方ではないのか思い暗殺の機会を狙っていたのです」
「そういう事、要するに私はどうせクズだから姉さんのために死んだ方がマシって事ね。 分かったわよ、死ぬわ! その代わりにサナトの事は助けてやって」
「承知致しました。 王族として市民を守るその心、立派です」
「あなたにもお世話になったわありがとね」
「いえ、こちらこそ、楽しい毎日でした。 では覚悟を決めてください」
「おい! セピア! 勝手に死のうとするなよ」
血は止まらないが無理やり服で傷口を縛り出血量を少しでも抑え、なんとか立ち上がる。
「おや、まだ立てるんですか、でもそれ以上動くと本当に死にますよ」
「うるせぇんだよ、クソ執事が、お前は俺の友達を傷つけた」
「もうやめてサナト、もういいの。 私はあなたの前だと強気だったかもしれないけど、城では本当にただの役立たずでみんなの足を引っ張るだけの存在だったの、死んだ方がい」
「二度とそんな事をいうな!」
セピアが喋っている所を大声で掻き消す
「俺の友達への悪口は例えその本人でも許さない! 自分を悪く言うな! 俺をあの部屋から連れ出したくれた時、あんなに人の手が暖かいと感じたのも初めてだった。
太陽のように明るくてこっちも元気になるそんな気持ちにさせてくれたのはセピアだ。
生きる理由は俺が必要とするからでは不十分か?」
「死にたくない。 役立たずでも何にも出来なくてもあなたと友達で居たい!」
セピアの顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
「泣くなよ」
セピアの涙を袖で拭い、ホルドの前に立つ。
「どうするんですか? そんな状態で立っているのもやっとじゃないですか」
「そんな事関係ない、お前を殺す」
「無傷だとしても全く勝ち目は無いんですがね、いいでしょう。 あなたを先に殺します」
ホルドは短剣を構えた。
「セピアこれだけはお母さんに伝えてといてくれ、俺は自分の意思でこの鎌を使ったって」
胸に手のひらを当てると、胸が大きくへこみ真っ暗の穴が空き、そこから俺の身長ぐらいはある大きな灰色の鎌が現れた。
刃は稲穂のように長く垂れ下がり、灰色の刃を触ると砂のように崩れ、離すとまた空中に漂いながら少しずつ刃の形に戻っていった。 刃は棒の先に丸い球体が付いていて、そこから伸びているみたいだ。
砂が空中に浮き、刃の形を保っている感じだ。鎌の終わりは胸に伸びていて、心臓と繋がっていると感じた。
「なんだその禍々しい鎌は」
「俺もこの鎌使うのは初めてだからよくわからないけど、名前は知ってる。 終わりの鎌だ」
「初めて? 確かに見た目は恐怖を感じますが。 戦いの場に初めて使う武器を持ってくるなど馬鹿としか言いようがない。 早く死になさい」
ホルドは再び短剣を振りかぶる。
「初めて使うのはこの鎌は1度しか使えないからだ。 相手に終わりをもたらす鎌、確実に相手を死に至らしめる。 代償は所有者の命だから」
鎌を構え、ホルドに振り下ろそうと思った瞬間、鎌の刃の砂粒は形を変えてホルドの体を貫通し、刃形に戻り鎌を振り終わっていた。
ボルドの体には鎌で切られた傷跡は無かったが叫び声も上げずにその場に倒れ、2度と動く事はなかった。
「セピア! これで大丈夫」
体から力が抜け視界が暗くなり真っ暗な闇へ体が落ちていった。 この鎌を使った者には1人残らず死が訪れる。 これが死の感覚か。
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