第10話死んで死んで死んで




 「ここはメソン、簡単にいえば魂の選別所ってなんだ君かまた死んだのかい?」



 天使のアロイはメソンの地面に叩きつられた俺にそう言った。



 「アロイさん、俺早く戻らないとセピアが危ない!」


 「セピア ……あの子ね! わかったわかった、王の娘なのに垢抜けない子ね。 君の目を通じて見てたよ」


 「俺を通じて? 何してるんですか」


 「いや、だってもう君は死んだら私の物だし、何回か死んでるから半分は私の物だからねそれぐらいはしても良いでしょう。 にしても今回は相手が悪いね」


 「どういう事ですか?」


 「君を殺したあの眼帯の男は多分この国で1番か2番には強いよ、キルギスって言ってこの国の将軍だね。 前の死の鎌の持ち主がキルギスに会ってたから知ってるよ」


 「あいつがキルギス! なら尚更戻らないと、セピアが危ない!」


 「いやいや、君はただの死の鎌を持ってるってだけで生き返るなんてチートな能力はセピアちゃんが持ってる力だからね。 君はここで力を使われるのを待ってもしこのまま使われなかったら私の仲間になるしかないよ」


 「そうですか」



 なんだか体の力が抜けてその場に座り込んだ。 もしこのままセピアが力を使わなかったら俺はあんな呆気なく終わり? 本当に?



 「そんな顔しないでよ、こっちではどうしようもないじゃん。 あ! そうだもし生き返れたらさ今度誰でも良いから1人その鎌で殺してここに連れてきてよ。 


 天使は自然現象になって人間界の命の総量を増やしたり減らしたりしてるんだけど、ちょうど雷天が空いてるんだよね」



 アロイさんは座り込んでいる俺の頭の上をグルグルと回っている。



 「雷天?」


 「そう! 雷天! 雷になって人間が多い所に落ちたりして数を減らしたりするの、昔は猿みたいだった人間の前に雷落として火を起こして火の知恵を与えたりしてなんだけどね。 とにかく1人連れてくればその人の魂をここに留めて雷にするからよろしく頼むよ」


 「いや、俺今本当に死ぬかも死んないのにその話しないでくださいよ」


 「大丈夫だよ、ほら体が光ってるよ」



 その瞬間意識が一気に引っ張られた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「サナト! サナト!」



 いつの間にか雨が降り始めた噴水広場の前で俺は目覚めた。 セピアがびしょ濡れで俺の体を揺さぶっていた。 目覚めた俺をキルギスは噴水の端に腰をかけながらこちらを見ている。



 「セピアありがとう、それでキルギス将軍は何でここに?」


 「作戦がバレてお姉ちゃんはディーバ様の尋問を受けていて、私だけでも行くしかないと思って城を飛び出したんだけどつけられてたみたい」


 「ありがとう、わざわざ俺の為に大丈夫俺が守るから」


 「お前がサナトだな」



 キルギスは全く表情を変えずに冷たい口調で言った。



 「そうだ。 俺がサナト、セピアの剣だ」


 「お前の特異性は聞いていたが生き返った直後にセピアを守るその姿勢中々評価に値する」


 「なんだよお前、味方のはずだろ!」


 「まだ、認めるには足りないな」



 キルギスがそう呟くと噴水の中から3人の軽装の兵士が現れてそれぞれ剣、槍、斧を手にしていた。



 「俺達を試してるって事か、どちらにしろ襲ってくるなら戦うしかない」


 「いけ!」



 キルギスの号令で兵士達はこちらに向かってジリジリと詰め寄ってきた。



 「セピア、俺が死んだらすぐに生き返らせるようにすぐ後ろに居てくれ」


 「わかった!」



 3人の兵士のうち槍を持った奴がすり足で近づいてくる。 俺は鎌を取り出し構えを作る。 だが槍を持った男のリーチが想像より長く、高速の突きに反応できずに胸に風穴が空いた。


 胸に穴が開き体が前のめりに倒れ始めた時、鎌をそいつに向かって投げた。


 俺に致命傷を与えて完全油断していた兵士は反応は出来たが鎌を避けきれずに頬に小さな傷が付いた。


 男はその死の鎌の傷によってスイッチがきれたようにその場に倒れ死んだ。



 「まず1人、セピア俺が死んだらすぐに蘇生を!」


 「うん!」



 意識が途切れた瞬間に背中から痺れるような衝撃が全身に走った。 体の傷は塞がりメソンに落ちる前に生き返る事に成功した。



 「セピア! 後2回行けるか?」


 「うん! いけるよ、サナトは大丈夫?」


 「なんとか、頭が少し痛いくらい」



 斧を持った兵士が今度は叫びながら走って突っ込んでくる。 冷静に鎌を振ろうとするが斧兵士は俺じゃなくセピアに向けて斧を振り下ろそうとしている。



 「セピア!」



 身を挺して斧からセピアを守ろうとしたが杞憂だった。 セピアは斧兵士の強烈な振り下ろしを避けて俺がいる方向に兵士を突き飛ばした。


 俺はそこに鎌を振り下ろし、斧兵士を殺した。



 「セピア、いつの間にそんな事出来るようになったんだ?」


 「元々格闘術とか剣術は一通り習ってたからこの2日間はほぼ寝ないでずっとラミアさんと格闘の稽古をつけてもらってたの。 


 集中力とか体力が落ちたら体を回復させての繰り返し、相手が油断してたから今のは通じただけだよそれに後1人居るからまだ気抜いちゃダメ」


 「うん、なんだかいきなり頼もしくなったからびっくりした」


 「守られてるばかりじゃダメだからね、早く後1人倒してキルギスさんに話聞かないと!」


 「うん」



 俺はもう一度鎌を手元に出して砂で刃を形成した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る