物語を綴るとは……。

本格的なサイエンス・フィクションであり、作者の抱く思想や構想といったものが丁寧に書き綴られていると感じました。

描かれる心象または仮想風景は水彩画のように薄いですが、確かな温もりを感じさせる繊細微妙な筆致です。サイエンス・フィクションに疎い私ですが、これだけでも十分に心を揺さぶられました。

主人公は一人の人間というよりは、物語を綴る者であり、そこに命を削りながらも作者様の姿を垣間見たような印象を受けました。「苦しみや悲しみの中に確固たる意志が存在し、その意志自体をも疑いつつも継承して死んでいく……」。そのような声にならない葛藤のようなものを感じました。あるいは、そういった諸々の感情が溢れた末の「さようなら」だったのかもしれません。

何度も読み返したくなる、読み返すべき作品だと思います。作者様の意志を汲み取るために。そこには決して目を逸らしてはいけない真理があるのだと思いました。