大成功
竹中凡太
大成功
「よく来たな、五年振りくらいになるか。」
私はそう言って改めてサダを見た。昔からとことんファッションセンスの無い奴だと思ってはいたが、ここまで進歩という言葉からかけ離れた奴も珍しい。
「まあ、とりあえず上がれよ。」
ともかく、私は彼を家に招き入れた。
「風の便りにジョンがまた何か作ってると聞いてね。大発明家の顔を見にきたって訳さ。」
少しおどけてサダが言う。私が発明家を自称して久しいが、サダは私が何か発明する度に、私を馬鹿にしにくる貴重な友人だ。
「今度のはすごいぞ。」
「あの人工知能よりもかい。」
間髪入れず、サダがにやりと笑って言う。まったく嫌なことはしっかりと覚えている。
「ジョンが自動車に人工知能を付けたって言うから、乗りに来たことがあったよな。」
古い話だ。そんな話を持ち出されたんじゃ、私としては苦虫を噛み潰すしかない。
「俺だって全く想像もしなかったさ。まさか、あの人工知能がスピード狂だったなんてね。」
全く、今思い出してもぞっとする。あらゆる交通法規を無視した挙句、取締りの警官をクソポリと罵ったコンピューターは、世界広しと言えど一台きりに違いない。お蔭で私は一発で免許取り消しだ。
「で、今度はいったい何をやらかそうってんだい。」
「まあ、そう慌てるな。」
今度は私がニヤッと笑って言う。さあ、反撃だ。サダをギャフンと言わせてやる。私はポケットをごそごそあさり、それをサダに見せつけてやった。サダが一瞬、呆気に取られたような顔をする。
「…アナログ時計だな。」
「そう、アナログ時計だ。」
私は重々しく頷いた。サダはしばらく考えこんでいたが、あっさりと両手を挙げてみせた。考えるだけ無駄だと悟ったらしい。
「それが今回の発明かい。」
「そう、これが今回の発明だ。あ、そうそう、万年カレンダーも付いてるぞ。」
サダが何か言いたそうなのを私は手で制した。ちょっとからかい過ぎた。ここで何か喋らせても、めんどくさいだけた。
「まあ、聞けよ。実は、この時計は万年カレンダーのほかにもう一つ特殊な機能が付いているんだ。それが今回の大発明さ。この時計は、時間を止めることが出来るんだよ。」
「すると、俺が勘違いをしていなければ、だよ、ジョン。その時計のスイッチを押すと、世界中がピタッと動きを止める、と、まぁ、こういうことになるわけかな。」
「すばらしいよ、サダ。百点満点だ。」
私は一つ頷いた。鬼の首を取る、とはまさにこのことに違いあるまい。ところが、サダは私のセリフを真正面から受け止めてはくれなかった。
「すごいじゃないか、ジョン。世紀の大発明だよ、これは。」
オーバーアクションでそう言うと一言だけ付け加えた。
「事実ならね。」
「ま、サダが信じられないのも無理はないが、今度のは完壁さ。」
「そのセリフも十回は聞いてるような気がするな。」
サダが肩をすくめて見せる。残念だが反論できる根拠はどこにもない。何しろ過去の発明は、十回中十回が失敗に終わっているからだ。こうなっては道はたった一つである。
「よおし、わかった。そうまで言うなら身をもって納得してもらおうじゃないか。」
私が世紀の大発明を作動させようとしたまさにその時、サダが何かに気づいたように口を開いた。
「ちょっと待て、ジョン。まさか、俺とお前の時間も…。」
サダはそのセリフを最後まで言えなかった。
彼の発明が成功した歴史的瞬間であった。
大成功 竹中凡太 @bontake
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます