ライブハウスの喧騒、音楽への情熱。熱い感情たちのごく一部としての恋。

音楽に深い情熱を注ぐ若者達のエネルギーが溢れ、読み手が向き合う空間をこれでもかと震わす。この上なく高い熱量を発散する作品だ。

大学時代に組んでいたバンドを離脱し、今は社会の一員として仕事を持つ主人公、莉奈。彼女はギタリストとして活動していた時代に使っていたジャガーを今もクローゼットの奥に仕舞い込んでいる。
彼女が想いを寄せたボーカル・ゲバラは、昔から心にも身体にも音楽のことしかない男だ。莉奈は自分の音楽の才能や情熱がゲバラの求めているものに相応しくないと感じ、かつ彼に対し恋情を抱いている自分自身に苛立つ。ゲバラにとっては音楽が全てだ。恋などという感情を彼に期待することそのものが虚しいと感じている莉奈。自分は彼の音楽の足を引っ張るだけだという思いから、莉奈は再びバンドを一緒にやろうというゲバラの誘いを拒むが——。

音楽への深い情熱。その情熱を消しきれないまま複雑な感情が混じり合い、音楽と恋を切り捨てようとする主人公の苦しみ、迷い。温かな友人の支え。ライブハウス一杯に充満し、溢れ出す音と熱。そして莉奈が選ぶものは。

この作品は、恋愛を扱ってはいるものの、恋愛一色に染まってはいない。まさに一つの音楽のように、様々な感情が様々な音を奏で、絶妙なボリュームとバランスで絡み合い、たっぷりとした存在感のある一つの物語として読み手の心に響いてくる。読み終えた後に、何とも心地よい満足感を味わえる作品である。

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