タイムスリップと江戸文化と新旧エンタメをまとめて楽しめる良作

別サイトで以前読んだ作品だったのですが、カクヨムでも見かけたので改めて読みなおしました。やっぱり面白いですね。

ネット小説としては少し硬めな雰囲気で、構成は歴史小説でもSF小説でもあり、それでいて登場人物と展開はどこかファンタジー的な優しさがあって、だけど設定はしっかりリアル風味。

そんな感じで、とても綺麗にまとまっている印象の完結作品です。




本作の主人公は、ひょんなことからタイムスリップに巻き込まれ、江戸時代のただなかに放り出されるばかりか、自身がなんとか生きるすべを確保しようと四苦八苦する中で意図しないところで過去の歴史を改変してしまったことに気づき苦悩する人、という役どころ。

その過去改編の結果として、のちの世にはもう生まれなくなってしまったかもしれない、自分の愛する絵や漫画、物語といったエンタメ作品の数々を、自分の手で改変して江戸の世に送り出すことで生きる術を見出していくという、一風変わった知識チート作品になっています。


その為、この作品に関しては、読むにあたってかなり明確な元ネタとなる作品の引用や、江戸時代の通俗、歴史などかなり一般的ではない特殊な情報を目にする機会が多いのですが、

本作はそんな特殊な情報一つ一つにしっかりと分かりやすい解説を入れていて、読者が読んでいてストレスを感じにくい作りになっている点が、とても良く出来ていると思います。

また、現代の知識から生み出される主人公のエンタメ作品に驚愕する人々と同様に、江戸の常識や巻き込まれる歴史的なイベントに驚愕する主人公、という登場人物全員が色々な場面で驚くことになる本作は、どこか毎回展開がコミカル風味なのも、個人的にはおススメできるポイントです。


一応、あえて難点をあげるとするならば、読むにあたっての導入部分の展開がネット小説にしてはやや長めな印象ではありますが、これは作品の構成上どうしようもないことのような気がします。

出来ればこれから読み始める方には、とりあえず主人公が作中で作品を生み出し始める第10回ぐらいまでは読んでもらいたいところです。