僕のクソ妹が同じ世界にトラ転した上に(中略)の筈が無…はい、御命令通り今の僕はとっても冷静です

@HasumiChouji

僕のクソ妹が同じ世界にトラ転した上に(中略)の筈が無…はい、御命令通り今の僕はとっても冷静です

「ゆ……勇者様ぁぁぁぁぁッ‼」

「えっ? よ……夜這い?」

「違いますッ‼ 早くお逃げ下さいッ‼」

 何か変な夢を見て、目が覚めた途端にそれだった……。

 通学中に乗ってたバスが、横から居眠り運転のトラックに激突されて死んで、チート能力をもらって異世界に転生し……僕は、魔王軍を壊滅させた。

 そして、勇者として王宮の祝賀会に招待された夜……いきなり、僕が泊っていた部屋に王女様がやってきた。

「ど……どう云う事なんですか? 逃げるって……その……?」

「偽勇者を捕えろ〜っ‼」

「騙り者を処刑しろ〜っ‼」

 事態が全く把握出来ない内に、どこからともなく聞こえてきたのは不穏な叫び声。

「早く〜っ‼ 早くして下さいいいい〜っ‼」

「ちょっと待って、着替え……」

「そんな暇有りま………あああああッ‼」

 次の瞬間、部屋に衛兵が……雪崩だ……とんでもない数の衛兵が雪崩のように突入して来た。

 あまりの事に固まってしまい……チート能力を発動させる余裕さえ無かった。


「あれは何だ⁉ この詐欺師がっ‼」

「えええええっ?」

 王都の一番外に有る城壁の上まで連行された僕の目に映ったのは……。

「な……なんで……魔王軍?」

 ……そ……そんな……倒した筈だ……?

 どうなってる?

 だ……駄目だ……。

 チート能力を発動させるのに必要な精神集中さえ出来ない……。

 たしかに、魔王軍は壊滅させた筈だ……ボクのチート能力「」を使って……。

 と言うか……

 だが……次の瞬間……こちらに向って来ていた魔王軍が……急に止まり……。

 いや……その時……さっき見た夢の中と同じ変な感じがした……。

 い……居る……僕と同じ……チート能力持ちの転生者が……この近くに……。

 しかも……何となくだけど判る……。でも……何故なのかは判らない……。

 異世界転生させてもらう時、神様……多分……に、もらえるチート能力は1つだけだと言われた……例外は無いと……。

 なのに……あいつはチート能力を2つ持っている……。


 魔王軍は進軍をやめたまま、夜が明けた……。

 そして、僕と王女様は……許し難き詐欺師と、その共犯者として、王宮の玉座の間に連行され……。

「よう、兄貴、久し振り」

 だが、玉座に座っていたのは王様じゃなかった。

「な……なんで……お前が……」

「だって、一緒のバスに乗ってたじゃん」

「ああああ……」

「でも、この椅子、座りにくいね。あたしが王様になったら新しいの作らせよっかな?……王様になんのが面白ければだけど」

 そいつは……僕の妹だった。


「な……何でだ? 何で……?」

「説明した方がいい?」

「当り前だっ‼」

「あのさ……自分の立場、理解してる? 兄貴は1回目の転生だからチート能力は1つだけ。あたしは2回目だから2つ。兄貴の能力が『現実改変』なんて、出鱈目なモノでも、この差はデカいよ」

「2……2回目?」

「ああ。1回目の転生先は、チート能力持ちの転生者がウジャウジャ居てさ……いくら『万能精神操作』と言えど、たった1つしかチート能力を持ってないヤツがイキがると、どんな恐い目に遭うか知れたモノじゃなかった」

「ど……どう云う世界だよ、それ?」

「何、言ってんの? 兄貴も、この前まで居たじゃん。ネット用語で言う『修羅の国』だって気付いてなかっただけで」

「え?」

「地球だよ。選挙の時に判った。市会議員になれるのは、チート能力3つ持ちが最低ライン。国会議員が4つで、県知事が5つかな?」

「そ……そんな……馬鹿な……」

「で……2回目の転生の時に、神様にもらったチート能力は……兄貴が持ってるみたいな『現実改変』の抑止力。あたしは、あらゆるタイプの『現実改変』の影響を受けないし、あたしの意志では『現実改変』を起こせないけど、兄貴みたいな『現実改変』能力者が、自分のチート能力を善からぬ事に使った場合は……取消し・上書き自由自在……」

 あ……マズい……。たしかに、僕がやったのは「善からぬ事」だ……。英雄になる為に、居もしなかった「魔王軍」を生み出して……自作自演で消し去ったんだから……。

「そして、兄貴は……あたしの1つ目のチート能力への耐性なんて無い」

 その言葉の意味を理解してから……僕の心が消えるまでの短かい瞬間……僕の頭に浮かんだのは……ある疑問だった……。

 僕が糞野郎だと知ったのに……王女様は何故……。


「まずは……あの『魔王軍』とやらを封印しな。あたしが必要とする時は、いつでも使えるような状態でね」

「はい、御主人様の御心のままに……」

「次は……そうだね……。兄貴の『女』を、あたしに献上しな」

「は……はい……この王女は……これより御主人様の所有物です。生かすも殺すも、御主人様のお望みのままに……」

「そ……そんな……ゆ……勇者様……正気に戻って下さい……。あ……貴方が本当に勇者様の妹君でも、こんな狼藉……許しません……勇者様を元に戻しなさいッ‼」

「あのさぁ……王女様。何で、あたしの兄貴が、糞野郎だと知ったのに、兄貴を愛してんの?」

「な……何を……言っているのですか……?」

「あんたが、今から、あたしが言う事を信じたとしても……あんたは兄貴を愛し続けるだろうけど……なんだよね」

「そ……そんな馬鹿な……一体、何の為に……?」

「いやねぇ……男でも女でも……あたしの思う通りにしか動かないヤツには、いい加減飽きたんだよね。……そこで考えたんだ。ってね。って訳でさ、せいせい、あたしを楽しませな、王女様」

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