第6話揺れる王国
仕事を終え、俺はカムイの寝ている宿に帰ることにした。部屋の後始末をし、カース・ロバーツの死体をテレポートで見つからないところに移した。自分がした事に後悔はしていない。自分がした事が正しいのかもわからない。ただ、初めてな気がしない。普段の仕事でもナイフは隠し持っているが、実際に使ったことはまだ無かった。だが、カース・ロバーツにナイフを突きつけた時、いや、殺した時同じことが過去にもあった様な気がした。それも何度も。「考えても無駄か。」俺はそんな独り言を言い部屋を後にした。変装を解き宿に着いた時、カムイの寝顔を見て安心した。俺もシャワーを浴びて眠りについた。
次の日、カース・ロバーツが行方不明となり大規模な捜索が始まった。しかし裏では、国のトップになれるチャンスが来たと、一部の集団が行動を始めているらしい。それに伴い、学園も休校となり俺とカムイは宿で過ごす事になった。仕事を終えてからそこまで時間が経っていなかったから、俺はもうしばらく寝る事にした。「ねえ兄貴、寝てないで遊びに行こうよ。」カムイがそんな事を言ってきた。「バカ、国がこんなに揺れてるのに遊びになんて行けるわけないだろ。子供だなカムイは。」俺はそんなふうに返すと、「いいじゃんそんなこと気にしないで。兄貴と遊びたいんだもん。それに、子供じゃないもん。」カムイがムッとした顔で言ったきた。かわいい。またそんなことを思ってしまった。「わかったよ。でもこの国で遊ぶのはまずいからな。」俺がそう言うと、「じゃあどうするの?違う国でも行く?時間はかかると思うけど。」とカムイが言った。「わかってるよ、でも今は綺麗な景色を見たいな。今すぐ。カムイ目を閉じて、俺の手を握って。」俺が優しくそう言うと、「え?それって・・・まだ心の準備が。」カムイはそう言いながら目を閉じて、俺の手をギュッと握ってきた。俺も手を握り返し魔法を唱えた。「目を開けていいよ、それと手を離していいよ。」テレポートで綺麗な夜景が見えるところに移動し、カムイにそう呟いた。カムイが目を開けて一瞬何かにがっかりした様子だったが、「うわあ、綺麗。ありがとう兄さん。」と喜んでくれたみたいだった。「カース王国とこの国では時差があるからな。こんな夜景を二人で見たかったんだ。カムイ、手離していいんだぞ。」俺がそう言ったが、「離さないから。兄さん、昨日の夜どこ行ってたの?」とカムイが聞いてきた。「ちょっと外の空気を吸ってきただけだよ。」俺が嘘をつくと、「わかるもん。兄さんから香水の匂いがしたし、それになんとなくでわかるもん。ずっと一緒にいるから。」カムイには敵わない。そう思って、全部言う事にした。「ごめん、背追い込まないって約束したのに。カムイを頼るって。俺は生活費を稼ぐためにある仕事をしているんだ。夜いなくなるのはそのせいだよ。昨日の夜・・・。」全て話した。仕事の事、昨日の夜カース・ロバーツを殺した事。スッキリした。話してよかった。そう思った。するとカムイが口を開いた。「兄さんごめん。私も兄さんに隠していることがあるんだ。」カムイは申し訳なさそうに続けた。「カース・ロバーツを殺したって言ったよね。前にもこんなことがあった様な気がしたって。私もあるよ。殺したこと。」俺はさらに質問をした。「具体的に誰をいつ殺したか覚えているか?」物騒な質問をしてカムイは答えた。「ごめん、そこまではわからない。私も誰かを殺めたことがある気がするだけだから。ただ、私達だけじゃなくて他にも仲間がいた気がするんだ。」仲間?どうやら俺とカムイで記憶のあり方が違うらしい。「そうか。この話の鍵を握っているのはレネットらしいな。アイツは俺が記憶を一部失っていることも知っていたからな。それと仕事の事も。」俺がそう言うと、「レネットに話を聞くことも学園が休校になった今では難しいね。」カムイがもっともな事を言った。「そうだな。」俺はひとつ返事をすると、「まあでも、それより。今は兄さんの女装姿に興味があるなー。」とカムイがニヤニヤしながら言った。「嫌だよ。」その後もしつこく女装しろだのなんだの言ってきたが、カムイにはあんな姿見せたくない。絶対に見せてたまるか。俺はそう誓った。
雨の生き方 @pixy0001
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