第4話 エルフの想像する最強のロボット

「すごい…」


 そこには、ギリシャ彫刻のような均整のとれた9頭身の巨大なエルフがいた。

 長い耳に長い髪。リボ●テックみたいな可動型石膏像の逸品が目の前にそびえる。

「まるで増長天のフィギアが動いているようだ…」

「わかりにくい感動の仕方だなぁ…」

 細い腰にすらりと伸びた長い足。モデルのような8頭身の姿であった。

 身長は約20m。

 その美しさに大神は、ほう。と感嘆の息を吐いた。

「見た目ではあっちの勝ちだな」

 彫像みたいな美しさを誇るエルフを模した姿に大神はそう言った。

「戦闘用ロボとしてはバランス的によくないが、見た目は美しい。エルフがロボをイメージするとこんな感じになるのかぁ」

 これだよこれ。別人種がイメージするロボットというのを俺は見てみたかったのだ。

 そうハレンは感動していた。

「なあ!女エルフ!ちょっと聞いて良いか?」

「何だ?」

 自分が生み出した巨大なゴーレムに戦慄していたエルフは、ハレンの問いかけに答える。

「長い耳は何か特別な機能が付いているのか?それとも無いと不自然だと感じるのか?」

「?耳は長いのが当り前だろう?」

 人間は巨大な機械として工業的意匠からロボを想像した。

 それ故に人間では不可能な自由関節をつけたり、非常に長い指のロボットアームが付いている代わりに、耳は無いし、頭が無くても必要な機能さえ備えていればロボとみなしていた。

 だが、ゴーレムと言う細部までもが魔法の力で容易に加工できる世界では、自分と瓜二つの見た目を再現するのが当たり前として感じるらしい。

 ルネッサンス時代の写実的な彫像を基準としているので、ロボットなのに髪があれば長い耳まで再現出来ている。

 これに何か特別な機能でも付いているのか?それとも巨大なだけの写し身となるのか?

 未知の文化で造られたロボットがどのような機能を持つのか、ハレンは興味深々だった。

「あれで、腕が伸びたり火を吐いたりする姿は見たくないなぁ」

 と、大神はつぶやく。

「ヨガファイターみたいな機構か。それはそれでおもしろい」

「やだよ。偶像を汚さないでくれ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「見た感じ、あのロボットは全長20mはあるな」

 エルフの生み出したロボットは全長15mのバトルマスターよりも頭二つ分高い。

 ただ、横に広いバトルマスターに比べると縦に長く横に短い。

「リアルタイプとSDタイプの戦いっぽいなぁ」

 そんな事を言っていると、試運転のつもりか、目の前のエルフゴーレムは空手家のように素早いパンチやキックを繰り出す。

「ふむ。思ったよりもよい動きだ」

 そう言うと、バック転、側転、ムーンサルトキックまでかます。

 想像以上に身体能力が良い。

 それをみて大神は焦ったように問いかける。

「おいハレン。あれ多分無茶苦茶強いぞ。どうするんだ?何か策でもあるのか?」


「ない」


 もともと、異世界人が作ったロボと戦いたくて来たのだ。

 勝ち負けは初めから問題ではない。

「バカ。スペシャルバカ」

 と言われたが、大丈夫だ。

「バトルマスターは 無敵だ!」

「お前、そればっかりだな」

「そこのバカの隣の人間…かなり苦労してそうだな」

 と敵のエルフからも大神は哀れみの目で見られていた。

 そんなギャラリーをよそにハレンは

「よし!それじゃ、勝負だ!」

 と、異世界初のロボット戦の開始を宣言するのだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「いくぞ!」

 エルフは先ほどは一歩一歩ゆっくりと歩いてきた距離を、跳躍一つで飛び越えてきた。

「速い!」

 しなやかな筋肉を思わせる大理石の足がバトルマスターめがけて繰り出される。

「バトルマスター!!!居合い切りだ!」

 射程圏内に飛び込んできたエルフゴーレムの足を捕らえたと思ったが

「おっと」

 蹴りで伸ばした地面に足を叩きつけ寸前で止まると、その足を軸にもう一方の足で足払いをかけてきた。

「バトルマスター!受け止めろ!」

 これに対しバトルマスターは足を踏ん張って蹴りを受け止める。

 だてに重心は低くない。


 そして、蹴りあげてきた足を掴むと、遠心力をかけて放り投げる。

 森の木々を数百本なぎ倒して地面を統べるエルフゴーレム。

 だが、受け身を取るとエルフは倒れた状態から腕の力で跳び、ドロップキックをかましてきた。

 20mの巨体による両足の飛び蹴り。重さにすれば数十トンの強烈な質量がぶつかって来る。

 しかし…

「倒れない…だと」

 同等質量がぶつかってきたので、さすがのバトルマスターも完全には受け止めきれず、砂埃をあげて後ろに滑った。

 だが、それだけだった。

「バトルマスターは足が大きくて重心が低いから、プラモでもすっごく倒れにくいんだよ」

「起き上がりこぼしみたいだな」

 倒しても倒しても立ちあがるダルマの様な玩具。

 これはバトルマスターのおもちゃを作った人が「補助なしでも手軽に立って飾れるロボットにしたい」というコンセプトで作ったからなのだが、ハレンがスタンドがないとまともに立てないリアルタイプロボよりもバトルマスターの体型の方が戦闘向きだと考える原因がこれだ。

「それに細い手足ってのは掴みやすいから、こんなこともできちゃうんだよ。いけ!バトルマスター!」

 そういうと、エルフゴーレムの足を掴んでジャイアントスイングをかます。

「うぎゃあああああ!!!!」

 全長20mの巨体が、操縦者たちの頭上でグルングルンと回る。


 その光景にエルフたちは恐れおののいている。

「近くの洞窟に避難しろ!あんなのが落ちてきたらただじゃ済まんぞ!!!」

 ロボット戦とは怪獣との戦いの様なものである。

「おいハレン。俺もすっげぇ怖いんだけど」

「安心しろ。    。」

「その言葉のどこに安心が存在すると?」

 下手したら、敵味方お構いなく引きつぶしかねない。

「バトルマスター。誰もいない山にゆっくりおろしてくれ」

 うん。この技は一歩間違えれば、こちらにもダメージがくる。封印だな。

 そう言いながら、回転の勢いを弱めて、ふんわりと軟着陸するようにエルフを山に降ろそうとして


「あ」


 間違えて、頭部を山肌に叩きつけてしまった。


 エルフゴーレムは首が細いため、ぼっきりと折れて頭部が山を転げ落ちてきた。

「グロい!!!」

「究極超人●だ!」

 妙に嬉しそうな声を挙げるハレン。首が取れるというお約束を見て御満悦なのを見て、大神は「こいつやべぇ」と思った。


「ぎゃあああああああ!!!!」

 そして、たまたま頭の転げる先に避難していたエルフたちは死を覚悟した。

 

「助けろ!バトルマスター」

 その声で、回転する頭部を掴む。造詣が良いので作り物の頭部ながらスプラッターのような光景である。


「手足が細いと、やっぱり脆いなぁ。」

 そう言いながら首の取れたエルフゴーレムに近付くと

「おっと」

 するどい蹴りがバトルマスターを襲う。

 機械人形であるゴーレムは頭が無くても十分動ける。

 目は操縦者であるエルフが見れば問題ない。むしろ頭部はなくても問題ないのは産業用ロボを見ればわかるだろう。

 掴まれないように、小さく鋭い攻撃に切り替えたエルフ。

 こうなるとリーチが短いバトルマスターは不利である。

「おい。まずいんじゃないか?」

 ロボット戦に慣れてきたエルフは想像以上に良い動きをし、バトルマスターは次々と繰り出されるパンチやキックに防戦一方となる。

「やるねぇ」

 想像以上に動く相手に感激するハレン。しかし

 

「だが、背が高いと変速的な攻撃には弱いんだよねー」


 そういうとハレンは獲物を狙う目で、叫んだ。

「バトルマスター!投石だ!」

 次の瞬間、バトルマスターは軽くかがんで大岩をつかむと、人型ゴーレムのすねをめがけて投げつけた。

「きゃあ!!!」

 すんでのところでかわすゴーレム。しかし

「次だ!バトルマスター!!」

 手当たり次第に岩を投げつけるバトルマスター。

「おい!こちらも反撃をせぬか!」

「かわすのに手一杯でかがむ事ができません!」

 足が長いと地面の物を拾うのにも一手間かかる。

 しかし腰を屈めると投石に当たる。

 それに対し、頭身の低いバトルマスターはノータイムで岩を拾える。

「卑怯よ!!!」

 つぶてのように飛んでくる大岩をかわしながらゴーレムを前進させる。

 だが。

「バトルマスター!煙幕だ!」

 そういうと、魔法使いとゴーレムの間に大量の土砂を投げつける。

 大量の土が地面に激突し30mの砂埃があがる。

「しまった!」

 これでは敵の姿が、いやゴーレムの姿すら見えない。

「いけぇ!バトルマスター!」

 その声に、エルフは見た。

 一瞬にして距離を詰めた異世界人のゴーレムが、自分のゴーレムのすねに大岩をたたきつけたのを。

 そして、亀裂の入った所へさらに刀をたたきつけたのを。

「ああああ…」

 次の瞬間、片足を失ったゴーレムは地面に倒れた。

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プラモの力で異世界ロボットバトルをしよう 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru

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