後編
「一つ伺いたいんですが、お二人のご自宅はこの近所ですか?」
「私はそうですが」
「俺も近くです。でもそれが?」
「でしたら長谷川さん、お手数ですが、ご自宅に今この宝石があるかどうか、確かめさせて頂けませんか?」
「え?」
「お、やっぱりこの人が盗んだんですか?」
鎌田さんが心なしウキウキしている。
「いえ、そういうことではないと思います。とにかく、よろしければそうさせて頂きたいんですが」
「……わかりました、いいですよ」
長谷川さんの自宅は、築十五年の立派なものだった。今は奥さんも仕事中のようで、留守だった(ちなみに長谷川さん自身は仕事の移動中で、緊急事態につき業務を中断したそうだ)。
通されたのは、広い寝室だった。長谷川さんがクローゼット内の小さな棚を指差す。
「指輪はここにしまってあったんです」
そう言って引き出しを開けた長谷川さんは、「あれっ!?」と叫んだ。
「ある!」
引き出しから指輪ケースを取り出す。慌てたように開くと、そこには青い小粒の宝石を付けた指輪があった。
長谷川さんはベッドの上に、二つの指輪を並べた。
それらは、全く同じ物だった。サイズも形も、XR空間に表示される情報も、すべてが同じ。そしてそのどちらにも、二重にデータが登録されていた。
「これはいったい……」
「お二人とも、落ち着いて
僕は言いながら
そして、「えっ」と固まった。
ベッドの上には、ただの灰色の輪っかが並べられていた。
「これは、XRマーカーを付与した偽の指輪です。お二人は詐欺に遭われたんです。偽物の指輪を、本物の指輪だと騙されて買ってしまったんですよ」
「そんな馬鹿な。だって私は、もう十年もこの指輪を持ってたんですよ」
「俺なんて毎日着けてたんですけど?」
「現代人は、出かける準備をする時には必ず
絶句する二人に代わって、神崎が質問した。
「でも、二重登録されていたのはどうしてですか?」
「その指輪をよく見てごらん。同一のXRマーカーが使われているから」
同一のXRマーカーは、ごく普通に存在する。TJBシステムはそれらを、
おそらくその詐欺師は、仕事が雑なのだ。十年も同じマーカーを使い続け、全部に違う情報を付けて売り歩いているのだから。
これまでは、購入者が全く違う地域の住人だったため、発覚しなかった。しかし今回はたまたま、近隣住民がそれを買ってしまった。同じ地域にある、同じ物体に付いた同じマーカーを、TJBは区別できない。
だから、二つのマーカーに登録された異なる情報を、一つの指輪の上に表示してしまったのである。
僕は落胆する二人の肩を叩いた。
「お気持ちはお察しします。あとは我々に任せてください」
「任せてって……」
「何をするんですか?」
「もちろん、犯人を見つけ出します」
「できるんですか!?」
「ええ、もちろん。TJBシステムは、こういう時のためにあるんです。我が社の装置を使えば、このマーカーがいつどこで登録されたかが分かります。この灰色の指輪の製造者も突き止められます。警察や外務省と協力してそれらを辿れば、すぐに犯人はわかるでしょう」
二人は飛んで喜んだ。
その後、僕は無事、二人に吉報を届けることができた。
これはジャックの作った指輪だと。
これはジャックの建てた家 黄黒真直 @kiguro
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