73作品目

10話.[いてくれるなら]

「いねえ……」

　どこを探しても冴が見つからない。

　まだ昼休みだから帰っているということもありえない。

　同じクラスだから実は風邪だったことを気づいていませんでした、なんてことにもならない。

「あ、学君どうしたの？」

「あ、冴のやつを知りませんか？」

「今日はまだ見てないかな、まだ菜実ちゃんのところにも行ってないからさ」

　そういえば珍しく来ていなかったかと思い出した。

　それに昼休みまでは冴も教室にいたから全く気にならなかったし。

　つか、菜実ちゃん、ねえ。

　俺もとっとと呼んでいたら――いや、いまとなっては意味のないことかと片付けた。

　しかも裏切ることになってしまうからそんなことできるわけがないし。

　……こう言ってはなんだが、する必要もないんだ。

「あ、どうしたのそんな顔をして」

「どこに行ってたんだよ……」

「ちょっと花壇までね、水をあげてきたんだ」

　なんで美化委員でもあるまいしそんなことを……。

　縛りたいわけではないが、言ってからにしてほしい。

「ふふふ、心配して探してくれたの？」

「心配、というか、俺がいたかっただけだ」

「変わったねー、あ、礼」

　まあいいか、いてくれているところであれば問題もない。

　つか俺は……なんか気に入りすぎだろ。

　こういうよくも悪くも真っ直ぐな人間が好きなのかもしれなかった。

　あとは不満とかも口にしてくれるのが分かりやすくていいか。

「どうしたの？」

「好きなら一生懸命にならないと駄目だよ？」

「うん、ありがとう」

　……余計なことを。

　つかそれよりも早く返事をほしかった。

　返事をした後に言うのならあれだが、その前にこういうことを言うのはちょっと……。

　というか、抱きしめるのを許可してくれただけでそもそも好きでいてくれているのか？

「そういえば土井さんはなんか変わったね」

「そう？　あ、それは間違いなくここにいる人が関係しているね」

　あとはそれそこ先輩との出会いと、間違いなく壮さんの存在だと思う。

　残念ながら彼女の両親とは会ったことがないからそれぐらいしか分からない。

「んー、そもそも土井さんが強かったってことなのかもね」

「私が強いってことはないよ」

　動揺せずに行動できる人間だから先輩が言っていることも間違っていないな。

　大田と同じぐらい、いや、そこまでではないか。

　たまに変なことをしたり言ったりするから心配になったというのはあるんだ。

「大丈夫、俺が見ておくから問題ない」

「それは、ありがたいことだけど」

「学君がいてくれるなら安心できるね」

　とはいえ、できることは少ないが。

　それにいまは単純に一緒にいられる時間を増やせばいいだろうと片付けたのだった。