09話.[そっちでも敗北]

「――ということがあったんです」

「そうなんだ? 礼は結構積極的なんだね」

「はい、たまに落ち着かなくなるときがあります」


 彼女的には現状維持を望んでいるのかもしれないけど、礼的にはいますぐとは言わなくても変えていきたいと考えているのかもしれないと、いまのを聞いて分かった。

 それに学との件があるからそこで引っかかっている可能性がある。

 ……その相手を横取りした私からすれば、できるだけその話には持っていきたくないけど。


「中嶋さんとはどうですか?」

「あ、えっと、クリスマスや大晦日は一緒に過ごしたよ」

「楽しかったですか?」

「うん、ただ、お正月の日からはいままで会えていなかったけど」


 それこそお母さんの実家に帰っていたから会えなかった。

 ただ、やり取りは続けられていたから寂しいということもなかったかな。

 なんか会いたいとか送られてくる度にうぇってなっていたのは内緒だ。


「私、少しだけ悔しいです」

「……や、やっぱり?」

「はい、だってあれだけ一緒にいたのになんにも変えることができなかったんですから」


 勝ち負けではなくてもやはり気になるか。

 私がもっと時間をかけてしているのであれば片付けられたかもしれないけど、遥かに少ない時間であんなことになってしまったから。

 別に自分がすごいとか魅力的だとか考えたことは一度もないけども……。


「あと、中嶋さんも簡単に変えすぎですっ」

「あはは……」

「しかもその相手である冴さんは本当にいいのか、なんて煽りをしてきますし」

「ち、ちがっ! 私はこれでも気にしていたんだよっ? だから協力してあげようとしたのに菜実ちゃんは怖い顔をしてきたから……」


 だから動けなくなってしまったのはあった。

 なので、逆に学に言うことでなんとかしようとしたらそっちでも敗北と。

 落ち着いてから再度頑張ろうとしたら今度は諦めるとか言い出して……。


「それも余計なお世話なんですよっ、どの立場から言っているんですかっ」

「え、それは友達としてでしょ、目の前でいちゃいちゃを見せられて結構……迷惑していたんだけどなー」

「み、見せつけていたわけではありませんっ」

「同じだよっ、非モテ相手に酷いことをしてくれていたんだからね!?」


 長い間、目の前と右斜め前にふたりがいたから目の毒だったんだ。

 本来は教室から逃げるような人間ではないのにあんなことをする羽目になった。

 でも、確かにそんな人間がアドバイス(笑)なんてむかつくか。

 これは考えなしだったと謝罪をして空気を悪くしないように専念したのだった。

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