エピローグ  青

「おはよう」


 目が覚めると、部屋中が電球にまみれたような眩しさの中、凛ちゃんが笑いながら

話しかけた。


 「おはよう」と応じながら、ビーチパラソルでできた影の外を見る。庭の草は十分

に生命力を感じるほどに明るい緑色をしていた。


 凛ちゃんと目を合わせる。


 彼女の目元は真っ赤だった。目玉も充血している。


 起き上がると同時に、強く抱きしめられた。


 「心配したんだからね!」


 「ごめん…」


 「でも、良かった」


 凛ちゃんからは、相変わらずふんわりといい匂いがするな。呑気にそう思った直

後、私の興味は外に向いた。


 「見てきなよ」


 凛ちゃんは、その様子を察して、私から抱擁を解いた。


 足元の草が、風になびかれる。


 影の外は、目が痛くなるくらい眩しい。


 「すっごく眩しいところは見なくていいからね。目に悪いから」と優しい忠告を受

けながら、私は、パラソルを出た。


 空を見上げる。


 青かった。


 真っ黒な夜の空を、青い絵の具で塗りつぶしたように、青が広がっていた。


 声が出なかった。


 その代わり、ほろほろと、涙が落ちた。


 「まだ早いよ」


 そう言われて、次は海の方を指さす。


 青かった。


 海もまた、今のこの空に負けないくらい、光り輝く青が広がっていた。


 「っ…!」


 太陽を見ると眩しかった。目を閉じると、まん丸な残像がなかなか消えてくれなく

て少し慌てた。


 「こらこら、太陽はそんなに直視しないで」


 凛ちゃんもまた慌てるが、クスッと笑った。


 「結果オーライだけど、良かった」


 「…うん」


 二人して海を見る。


 「結月、凛さん、ご飯よ!」


 昨日の夜、さっきの凛ちゃんと同じように私を強く抱きしめたお母さんの声。家に

帰り着いた時は、頬を叩かれるかと思っていたけど、そんなことはなく、むしろ涙を

流して「おかえり」と言われた。


 いろんな人に迷惑をかけてしまったのは反省しなければいけない。


 だからこそ、今までいろんな人に助けられてきた分、取り戻した―いや、手に入れ

たと言った方が正しいのかもしれない―この時間を、たくさんの人の役に立てるよう

に頑張りたいと思う。


 「そうだよね…、光くん」


 交換日記がなくても、今はもう、目を合わせて意思を伝えあうことのできる、元『陽の子』に、独り言ちる形で、そっと語り掛けた。

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会えない二人の交換日記 ヒラメキカガヤ @s18ab082

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