明示されない四つ目の「至宝」を語ろう

 転生、悪役令嬢、ざまぁ、知識チート、スキル、乙女ゲー。
 そんなテンプレ的ワードがふんだんに散りばめられた本作を一言で形容する言葉を探そうとしたところ「爽快感と疾走感に溢れ叙述トリックを多用した優しい人たちの愛の物語」となりました。

 ええ、ええ一言で形容しようなんて無理ですし、自分でも何を言っているのか分からないほど混乱しているのです。

 にも関わらず、ジャンル詐欺でも無く、ちゃんとテンプレに則っています。

 本作の最大の特徴は、一人称とスキルの組み合わせによる多角的な状況説明でしょうか。
 隅々まで見渡せて、我々が与えられる情報は常にフェアです。
 伏線と謎をちりばめ「あ、分かっちゃったもんね」と読み手の浅慮を誘う(私だけかも……)

 そして訪れる終盤の怒涛の謎解き。

 これ、推理小説? とばかりに紐解かれる真実の数々に唖然とし、その心地よさに陶然とさせられました。
 もう一度最初から読まずにはいられない状況に陥るのです。

 読後感はもう語彙が浮かびません。

 それでも敢えて一言添えるなら「至宝」

 本作で語られた三つの「至宝」に足されるべき、私にとって「至宝の物語」となりました。